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□第十六話 月夜という人
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○ 蒼天郭
音月の部屋。
カーテンに朝日が暖かく差し込んでいる。
音月「…」
鏡の前、バンダナを腰に巻き付ける。
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音月「…えっ?」
外に出た途端、蒼天郭の入り口に人影。
地面に座り込み、静かに寝息を立てているその人物。
顔を覗き込む。
音月「…理人?」
眠っている理人は、音月に気付く様子もない。
恐る恐る肩を揺らす。
理人「…んっ…」
ゆっくりと目を開くと、音月と目が合う。
音月「何してるの?」
理人「…」
太陽の光が、理人の顔を容赦なく照す。
それを眩しそうに、目を閉じ、眠たいのか両手で目頭を押し付ける。
理人「…お前、今まで何してた?」
キョトンとした音月との間に沈黙。
音月「・・・部屋で寝てたけど?」
理人「…」
両手をストンと下ろし、完全に覚醒した様子でいつもの仏頂面を向ける。
理人「てめぇ、昨日窓から入りやがったな!俺が何時までお前の事待ってたと思ってんだ!」
音月「…ずっと、待ってたの?」
理人「当たり前だ!お前が…戻って来ねぇんじゃねぇかって」
徐々に声は小さくなり、まるで叱られた子供の様に顔を背ける。
音月「…ふふっ…」
理人の様子におかしさが込み上げ、ついに笑い出す音月。
理人「笑ってんじゃねぇよ!」
音月「安心した?ちゃんと戻って来て」
理人「…知らねぇ。そもそも、お前が勝手にキレただけだろうが」
音月「…ふーん、本当はそう思ってるのね」
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隣り合わせの琉生と世嗣の部屋。
伴・琉生・世嗣・昂羽・夕和・充土が、窓から理人と音月の様子を見下ろしている。
伴「アイツ、ホント素直じゃねーな」
琉生「音月もそれは十分承知だよ」
昂羽「一言ごめんって言えば済む事なのに。なー充土」
充土「それが言えないのが、理人さんです」
昂羽「ははっ!だよな」
充土「恥ずかしがられてますけど、昨日から相当気にされていましたし、おそらく音月さんもそれは理解されていると思います」
昂羽「なんかお前、アイツ等の親みたいだな」
充土「(ニンマリ)」
夕和「…」
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理人「…おい」
音月「…」
じっと黙り、俯いてしまった音月に、動揺する。
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昂羽「くくくっ!理人の奴、焦ってる焦ってる」
世嗣「音月、相当楽しんでるな」
伴「単純な奴」
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顔を逸らしたり、様子を伺う、不安な表情。
理人「…とにかく、心配させる様な事はもうすんな」
音月「…それだけ?」
理人「…俺が悪かった」
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昂羽「言った!ついに」
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音月「それだけ?」
理人、業を煮やし、眉間に皺を寄せる。
理人「他に何を言えっつーんだよ!」
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琉生「あーあ」
伴「逆切れかよ」
可笑しそうに笑う二人。
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音月「…アタシが居ないと、生きていけないって言って?」
理人「はっ?」
いかにも悲しげに、更に演出は濃くなっていく。
音月「そしたら、許してあげる」
理人「…」
困惑、多い瞬き。
音月「…ふふっ」
然り気無く表情を隠し、本音から込み上げてくる笑いを後ろに逃がす。
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琉生「言うねー、音月」
昂羽「理人がそんな事、死んでも言えるわけないけどなっ」
夕和「…」
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理人「…んな事、言えるかバカが!」
音月「ふふふっ」
理人「言わずとも…分かってんだろ」
音月「えっ?」
理人「この指輪の契約を結んだ時点で、俺達は命を共にしたんだからな」
音月に指輪が見える様、左手を翳す。
音月「…」
緊張感が漂う二人の間。
それは伴達にも伝わっている。
音月「命を、共に…死ぬまで、一緒?」
理人「あぁ」
音月「…そうだね、一緒に生きようって約束したもんね」
理人「…」
音月「ムカつく事はあっても、嫌いになんてなれないよ。きっと…私の方が、一人じゃ生きていけないから」
理人「…」
音月「殴っちゃってごめんね?」
理人「…別に、気にしてねぇ」
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夕和「…」
琉生「何とも思ってなかったら、殴る必要なんてないよ。ね、伴」
琉生、伴を横目で見る。
伴「…」
昂羽「なあ、今のどうゆう意味?」
世嗣「それほど、理人が大切だって事だよ」
昂羽「ふーん…」
世嗣「お前も近々、音月に殴られたりしてな」
昂羽「えぇっ!?うわぁ俺、今の内に謝っとこ」
充土「昂羽さん、音月さんのベッドで、飛び跳ねてましたよね?」
昂羽「えっ!お前なんでそんな事知ってんだよ」
充土、不適に笑み、小さくブイサインを見せる。
昂羽「おいっ!」
夕和「…」
世嗣「…」
気を落とし、極端に口数の少ない夕和。
世嗣、夕和の頭に、ぽんっと手を乗せる。
世嗣「考え過ぎだ」
夕和「…はい」
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理人の左手を、自分の手で包み込む。
音月「しっかりね。あなたは空族のリーダーなんだから」
理人「…あぁ」
二人の指輪が、間接的に重なり合い、仄かな光を放っている。
音月「全部、あげる…私の力…」
理人「…」
音月「月光石は、理人が全部使って」
祈る様に、目を閉じる。