Story...

□第十六話 月夜という人
1ページ/3ページ

○ 蒼天郭

音月の部屋。
カーテンに朝日が暖かく差し込んでいる。

音月「…」

鏡の前、バンダナを腰に巻き付ける。





音月「…えっ?」

外に出た途端、蒼天郭の入り口に人影。
地面に座り込み、静かに寝息を立てているその人物。
顔を覗き込む。

音月「…理人?」

眠っている理人は、音月に気付く様子もない。
恐る恐る肩を揺らす。

理人「…んっ…」

ゆっくりと目を開くと、音月と目が合う。

音月「何してるの?」

理人「…」

太陽の光が、理人の顔を容赦なく照す。
それを眩しそうに、目を閉じ、眠たいのか両手で目頭を押し付ける。

理人「…お前、今まで何してた?」

キョトンとした音月との間に沈黙。

音月「・・・部屋で寝てたけど?」

理人「…」

両手をストンと下ろし、完全に覚醒した様子でいつもの仏頂面を向ける。

理人「てめぇ、昨日窓から入りやがったな!俺が何時までお前の事待ってたと思ってんだ!」

音月「…ずっと、待ってたの?」

理人「当たり前だ!お前が…戻って来ねぇんじゃねぇかって」

徐々に声は小さくなり、まるで叱られた子供の様に顔を背ける。

音月「…ふふっ…」

理人の様子におかしさが込み上げ、ついに笑い出す音月。

理人「笑ってんじゃねぇよ!」

音月「安心した?ちゃんと戻って来て」

理人「…知らねぇ。そもそも、お前が勝手にキレただけだろうが」

音月「…ふーん、本当はそう思ってるのね」





隣り合わせの琉生と世嗣の部屋。
伴・琉生・世嗣・昂羽・夕和・充土が、窓から理人と音月の様子を見下ろしている。

伴「アイツ、ホント素直じゃねーな」

琉生「音月もそれは十分承知だよ」

昂羽「一言ごめんって言えば済む事なのに。なー充土」

充土「それが言えないのが、理人さんです」

昂羽「ははっ!だよな」

充土「恥ずかしがられてますけど、昨日から相当気にされていましたし、おそらく音月さんもそれは理解されていると思います」

昂羽「なんかお前、アイツ等の親みたいだな」

充土「(ニンマリ)」

夕和「…」





理人「…おい」

音月「…」

じっと黙り、俯いてしまった音月に、動揺する。





昂羽「くくくっ!理人の奴、焦ってる焦ってる」

世嗣「音月、相当楽しんでるな」

伴「単純な奴」





顔を逸らしたり、様子を伺う、不安な表情。

理人「…とにかく、心配させる様な事はもうすんな」

音月「…それだけ?」

理人「…俺が悪かった」





昂羽「言った!ついに」





音月「それだけ?」

理人、業を煮やし、眉間に皺を寄せる。

理人「他に何を言えっつーんだよ!」





琉生「あーあ」

伴「逆切れかよ」

可笑しそうに笑う二人。





音月「…アタシが居ないと、生きていけないって言って?」

理人「はっ?」

いかにも悲しげに、更に演出は濃くなっていく。

音月「そしたら、許してあげる」

理人「…」

困惑、多い瞬き。

音月「…ふふっ」

然り気無く表情を隠し、本音から込み上げてくる笑いを後ろに逃がす。





琉生「言うねー、音月」

昂羽「理人がそんな事、死んでも言えるわけないけどなっ」

夕和「…」





理人「…んな事、言えるかバカが!」

音月「ふふふっ」

理人「言わずとも…分かってんだろ」

音月「えっ?」

理人「この指輪の契約を結んだ時点で、俺達は命を共にしたんだからな」

音月に指輪が見える様、左手を翳す。

音月「…」

緊張感が漂う二人の間。
それは伴達にも伝わっている。

音月「命を、共に…死ぬまで、一緒?」

理人「あぁ」

音月「…そうだね、一緒に生きようって約束したもんね」

理人「…」

音月「ムカつく事はあっても、嫌いになんてなれないよ。きっと…私の方が、一人じゃ生きていけないから」

理人「…」

音月「殴っちゃってごめんね?」

理人「…別に、気にしてねぇ」





夕和「…」

琉生「何とも思ってなかったら、殴る必要なんてないよ。ね、伴」

琉生、伴を横目で見る。

伴「…」

昂羽「なあ、今のどうゆう意味?」

世嗣「それほど、理人が大切だって事だよ」

昂羽「ふーん…」

世嗣「お前も近々、音月に殴られたりしてな」

昂羽「えぇっ!?うわぁ俺、今の内に謝っとこ」

充土「昂羽さん、音月さんのベッドで、飛び跳ねてましたよね?」

昂羽「えっ!お前なんでそんな事知ってんだよ」

充土、不適に笑み、小さくブイサインを見せる。

昂羽「おいっ!」

夕和「…」

世嗣「…」

気を落とし、極端に口数の少ない夕和。
世嗣、夕和の頭に、ぽんっと手を乗せる。

世嗣「考え過ぎだ」

夕和「…はい」





理人の左手を、自分の手で包み込む。

音月「しっかりね。あなたは空族のリーダーなんだから」

理人「…あぁ」

二人の指輪が、間接的に重なり合い、仄かな光を放っている。

音月「全部、あげる…私の力…」

理人「…」

音月「月光石は、理人が全部使って」

祈る様に、目を閉じる。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ