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□第十八話 誓い
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安寿「降伏だぁ?」
大広間に響き渡る声。
その声の主が、まさかこの状況で登場すると予想した者はいない。
突如唯助と共に現れた安寿に、皆の目が集中する。
安寿「知らねぇな、そんな言葉は」
惠麻「安寿」
桐友「…」
目頭に力を込める桐友に歩み寄り、見下ろす様に視線を送る。
唯助は傍観を決め込み、床に腰を下ろして、小さな笑みを浮かべながら二人を見つめている。
安寿「退け桐友。そいつは俺に話があって来たんだろ?」
桐友「…」
桐友の表情が和らぐ事はない。
族長としてか、父親としてか、安寿の命令に逆らう事はせず、だがどこか不服気味にゆっくりと身体を離す。
安寿は椅子にどかりと座り込むと、夏要に意味深な笑みを送る。
対称的に、夏要には緊張が走る。
夏要「あなたが地族の?」
安寿「おうよ。俺が族長の安寿だ。聞いてりゃお前、何か勘違いしてねぇか?」
夏要「えっ?」
安寿「これは元々、空族の奴等が仕掛けて来たもんだ。俺達の目的は奴等の打倒じゃない。自分等の身と、この基地を守る事、ただそれだけだ。すいません許して下さいって、仮に族長の俺が頭を下げた所で、アイツ等が止まるわけじゃねぇんだぜ?」
夏要「なら、どうしたらこの争いは止まると言うんですか?」
一瞬時が止まった様な感覚。
ふっと笑った安寿によってそれは解かれる。
安寿「来憂」
来憂「…」
安寿「あの氷の女はお前が止めろ」
来憂「えっ」
安寿「お前等同士の因縁だ、俺達が口出しするもんでもねぇはずだぜ。後はお前自身で、ケリ付けて来い」
来憂「…」
言われ、表情を曇らせ、そのまま俯く。
安寿「那央、弾斗、保、唯助」
四者顔を上げる。
正にその光景は、族長の威厳たるものである。
安寿「お前等は各自、連中の相手をしてやれ」
那央「…当然よ」
弾斗「おうっ」
唯助「はいよ」
保「…」
安寿「保っ!!」
保「はいっ!!」
きりっと直立した保を見て、皆に笑みが綻ぶ、完全に安寿のペース。
安寿「桐友、お前は…」
桐友「勝手な事言うな」
遮られる言葉、瞬間打ち砕かれる声。
最後まで名前を残したのも、まるでこれを意図したかの様。
安寿「あぁ?」
静かに怒りを顕にする、桐友の視線は床一点のみ。
桐友「今まで全く無関心だったくせに、何だよ今更」
顔を上げ、安寿を真っ直ぐ見る。
桐友「理人は、自分の母親を殺した奴等と手を組んだんだぞ!」
安寿「…」
惠麻「何それ、どうゆう事?」
沈黙を破る惠麻の言葉、だが普段の明るい調子ではない、そのくらい重要な桐友の次項。
濁った表情で、安寿から視線を逸らすと、淡々と語り始める。
桐友「…俺と理人の母親は、レミリア襲撃の被害に遭って、他界したんだ」
惠麻「・・・」
夏要「・・・」
目を見開いたまま、惠麻と夏要は凍り付く。
返す言葉が見つからない、桐友は続ける。
桐友「それを知ってて、奴は音月と手を組んだ。そして仲間を集めた、俺達を潰す為に。だったらこっちが先に潰してやる…裏切られたのはお前だけじゃないって事を教えてやる!」
来憂「桐友っ…」
桐友「分かっただろ?絶対に降伏はしない!この争いは、例え向こうが仕掛けて来なくとも、いずれこっちが仕掛けていた事だったんだからな!」
来憂「…」
悲しげな表情で桐友を見つめる。
重い沈黙の中、安寿の溜息だけが響く。
安寿「なら、お前はどうしたいんだ?」
桐友「アンタはどうする気なんだよ。理人は本気だ。本気でアンタを潰そうとしてるんだよ」
安寿「ふんっ、理人か・・・アイツは俺が止めてやる」
桐友「えっ…」
惠麻「安寿?」
唯助「…」
安寿「理人をあんな風にしちまったのは俺の責任だ。俺が必ず止めてやる。そしてこの争いが終わる頃には、お前が次の族長だ、桐友」
桐友「…」
那央「安寿、アンタ…」
唯助「へっ」
徐に立ち上がり、安寿に歩み寄る。
唯助「仕方ねぇな。お前の我儘に最後まで付き合ってやるよ、族長」
安寿「へへっ、悪りぃな」
自分も同じ意見とばかりに、安寿に微笑み掛ける那央・弾斗。
安寿もそれに、笑みで答える。
安寿「神族とやらは、お前等に任せるぜ?」
夏要「えっ?」
惠麻「…」
安寿「俺達が空族の相手をしている間に、お前等は何とかして、神族の奴等をぶっ倒す方法を考えるんだ」
夏要「…分かった」
惠麻「夏要?」
夏要の手を見ると、ぐっと力が込められ、少し震えている。
惠麻「…」
夏要「行くよ、惠麻」
惠麻「うんっ!」
夏要「痛っ!」
思いきり背中を叩かれ、声を上げる。
満面の笑みでこちらを見る惠麻に、照れくさそうに目を伏せる。
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保、惠麻と夏要が走り去っていくのを、いつまでも見つめている。
保「ついに…この日が来たんですね」
弾斗「まさかすべてが仕組まれていたとはな」
そう言い、傍に置かれた自分の顔の大きさ程の岩を軽々持ち上げ、くるっと宙で回し始める。
那央「正直まだ信じられないわ。神族なんて…」
弾斗「何にせよ…」
岩を両手に挟み、力を加えていく。
次第に亀裂、ついには粉々になり、砂となって消える。
弾斗「気に入らねぇ連中だぜ」
来憂「…」
桐友「…」
立ち尽くす桐友に視線を送る。
複雑な思い、何度も言葉を飲み込み、ようやく吐き出す。
来憂「桐友?」
何も答えない、振り向きもしない、来憂にとって初めての事。
来憂「音月を…止めなくちゃならない。悔しいけど、アタシだけじゃ、アイツの魔法には勝てない。力を、貸して欲しい…」
桐友「…」
来憂「アタシには…桐友を救う事は、出来ないのかな…」
桐友「えっ…」
その言葉に驚く、思わず振り返り、泣き出しそうな来憂の表情を捉える。
桐友「来憂…」
来憂「誰かを恨んで生きる人生なんて、つまんないじゃん。…って、これ惠麻の言葉なんだけどさ」
桐友「・・・俺はずっと、理人を恨んでた。そうして居なきゃ、母さんの死が無かった事になりそうで。でもそれ以上に…」
来憂「…」
桐友「君を裏切った事が、許せなかった。昔は、よく2人に遊んでもらってたから…」
来憂「…うん」
桐友「…でも」
来憂「うん…戻れるよ、きっと、今からでも」
初めて視線を交わらせる。
二人を覆っていた影は消え、代わりに表情には笑みが浮かぶ。
安寿「…」
唯助「お前さぁ」
二人を横目で見ていた安寿、唯助の声で呼び戻される。
唯助「久々で術の威力が鈍ってるんじゃないのか?」
安寿「いや。さっき森で試したが、問題無かった」
唯助「だから居なかったのか。つか、この歳で朝練?すげぇな」
安寿「若い奴等には負けられねぇからな」
唯助「で、どうすんのよ、りっちゃんは」
安寿「さぁな…でもまぁ、なる様になるさ」
唯助「…だな」