Story...

□第一話 始まりの詩
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○ 北の森

東の森に比べ、怪しく暗い印象を与える森。
食料の入ったナップザックを肩に掛け、周囲を見渡す伴(ban)。
灰色のサラリとした髪を一本に結い、緩めのシャツをスタイリッシュに着こなした物腰柔らかな青年。
立ち止まり、ポケットに入れていた左手を取り出し、無意識に頭に持っていく。

伴「まいったな。近くまでは来てるはずなんだが…地図は惠麻に一瞬見せてもらっただけだし」

仕方なく、しばらく歩いて行く事に。
すると、前方に現れた建物の存在に、思わず足を止める。

伴「ん?」





建物の名は蒼天郭(そうてんかく)。
外観は白いテントの様な風貌。
見上げると空高くまで伸び、箇所箇所には窓が付いている。

伴「何だこりゃ?」

昂羽の声「誰だ!?」

振り返ると、伴に気付いた昂羽(kouwa)が、蒼天郭の入り口から警戒している。

昂羽「何だお前?」

長く伸びた赤髪を一本編みに結った、子供の様な顔立ちの青年。
その上伴よりも10p以上の身長差で、幼さに拍車を掛けているが、真っ直ぐな瞳はとても意思的。

伴「あー…旅人?ってか、冒険家だな」

昂羽「冒険家が何の用だ?」

伴「ちょうど良かった。レミリアへの行き方は…」

音月「昂羽、世嗣が呼んでる」

伴の言葉を遮り、建物の中から音月(itsuki)が顔を出す。
胸元まである群青の髪の女性、視線を変えるたびに長い睫毛がチラチラと揺れている。

伴「おっ」

昂羽「あ、うん」

伴を一瞥する音月。

音月「誰?」

昂羽「よく分かんねぇけど、地族の奴じゃなさそうだぜ」

音月「何か御用?」

伴「あぁ。俺レミリア王国に行きたいんだ。途中で地図持った仲間とはぐれちゃってさ」

音月「…要は迷子」

伴「そうゆう事。だから、君が協力してくれると助かるんだけどな」

音月「…」

伴「少なくとも、俺よりはこの辺りの地形に詳しいだろ?」

昂羽「協力ってお前、まあお前余所者だから知らないか。俺達とレミリアはさぁ…」

音月「いいわ」

昂羽「えっ?」

音月「彼が奴等のスパイとも限らない。いずれにしても、少し事情を聞きましょう」

伴「やっりぃ」

昂羽「ふーん」

逆らう仕草は一切ない。
昂羽、音月を置いて、一足先に建物の奥に消えていく。

音月「着いて来て」

伴、背を向けた音月の背後、軽い足取りで着いて行く。





内部は、細めの通路が真っ直ぐと伸び、隣接した複数の部屋に分かれている。

伴「俺伴。名前聞いていい?」

音月「聞いてどうするの?」

伴「俺の仲間に会った時に、君を紹介出来ないじゃん」

音月「まだ助けるとは言ってないけど」

伴「じゃあ俺をずっと此処に置いておくつもり?それも良なぁ」

音月「…入って」

一室の前で立ち止まる。
扉の先は、ベッドと本棚、机と椅子だけの殺風景な部屋。

音月「…」

伴「御邪魔します‥君の部屋?」

音月「…音月」

伴「えっ?」

音月「私の名前。あなたにずっと居られちゃ堪らないから」

伴「なんだ、やっぱ助けてくれんだ」

音月「しばらくこの部屋からは出ないで、此処に居て」

伴「分かったよ、一歩も出ない」

音月「長旅で疲れてるんじゃない?旅人さん。ベッドを使って良いから、少し眠ると良いわ」

伴「あぁ、ありがとう」

音月「あなたの為じゃない。とにかく、おとなしくしてて」

部屋を出て行く音月。
伴、扉を見つめ、疲れからか溜め息を吐く。
 
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