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□第九話 決死の脱走
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○ 宮殿の地下

釈良の部屋にあった手紙を、真剣な表情で見つめる美去。

美去「…」

手紙の差出人に、廉牙(renga)と記されている。

美去「廉牙…」

扉が大きな音を立てて開かれ、夏要が駆け込んで来る。

夏要「美去さんっ!」

息を少し切らしながら、美去に近寄る夏要。

夏要「解き明かしましょう。この国に伝わる、二つの魔力について」

美去、冷めた表情で夏要を見る。

美去「何今更当然の事言ってんのよ。アンタ今まで何してたわけ?」

夏要「あ、すみません…何やってるんですか?」

美去、夏要に手紙を渡す。

夏要「これ、釈良さんの…」

夏要、手紙を読み始める。

夏要「我が親愛なる妻、円唯(madoi)へ。私の身勝手な気持ちで、君にすべてを押し付けてしまった事を、本当にすまないと思っている。剣の道を極め、両陛下を御守りする事が、私にとっての生きる意味なのだと、君はそう思わせてくれた。私がこの先どの様な状況に置かれようと、君を想う気持ちだけは決して忘れないと、心に誓おう。最後に、こんな私を父に持った事を不幸と思わない為にも、息子達を頼む。廉牙…」

美去「…」

夏要「この廉牙と円唯って人、釈良さんの御両親でしょうか」

美去「おそらくね」

夏要「あの写真の格好からしても、釈良さんはバリバリ王族出身なのか」

美去「やはり先代の王族に何か秘密がある様ね。廉牙と円唯、魔族の襲撃に関わる二つの魔力…」

夏要、大量の本が散乱した机の上から、年表を引っ張り出し、辿っていく。

夏要「廉牙と、その妻円唯。それに釈良さん…あれ?」

美去「どうしたの?」

夏要「あの写真に、もう一人赤ん坊が写ってましたよね?それに手紙にも息子達って…」

年表には、釈良の名前で関係が途切れている。

美去「つまりこれは、写真の赤ん坊が生まれて、まだ間もない頃に作られた年表というわけね」

夏要「…」

悲しげに年表を見つめる夏要。

美去「夏要、引っ掛かる事があるなら、全部話して」

夏要「いや…ただ、穂華様の名前がどこにもないなって」

美去「…」

美去、年表から視線を逸らす。

夏要「美去さん、何故穂華様は、王族の血縁無くして、女王の座に着いたんでしょう」

美去「…私も正直、気になってはいるけど…そんな事聞けるわけないわ」

夏要「そうですよね」

美去「ただ、先代の王妃は御子に恵まれず、代わりに穂華様を実の娘の様に育てられたとは聞いたけど」

夏要「だとしても、穂華様の実の両親はどうして…」

夏要・美去、同時にハッとする。
しばらく沈黙が流れる。

美去「…言ってよ」

夏要「…でも、これはただの憶測でしか…」

美去「それでも良いわ。聞かせて」

夏要「…もしかしたら、穂華様の両親は…魔族襲撃の被害にあったんじゃないでしょうか」

美去「…そうね。そう考えれば、時期もピッタリ合う」

夏要「仮に、この年表は魔族襲撃事件が起こる前に作成されたものと考える事にします」

美去「えぇ」

夏要「つまり、ここに書かれた人々こそ、二つの魔力に大きく関係している可能性が高いという事になりますね」

美去・夏要、顔を見合わせる。

美去「すぐに調べましょう」

夏要「はいっ!」
 
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