短編小説
□帰り道
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大学から最寄りの駅までの道のりに、少し遠回りをすると桜の木が整然と植えられている通りがある。
今は4月下旬、開花の度合いは満開を少し過ぎたあたりで、花びらがゆっくりと舞い落ちる景色はとても幻想的で道行くものの目を奪う。
大学周辺を探索していたときに偶然見つけたこの道は、その日から爽子のお気に入りになった。
現在の時刻は午後6時前。
雲の少ない少ない空は赤みを帯び始めている。
「翔太くん、電車までまだ時間あるしちょっと回り道しない?」
「いいけど、どこ行くの?」
「ふふ、行ってからのお楽しみ☆」
「??」
とりあえず爽子に促されるままにいつもとは違う道を行く。
俺にとっては初めての道ばかりだ。
「ここ!この通りだよ!」
まるで見計らったように風が桜の花びらを舞上げる。
「う……わぁ…!」
あまりにも幻想的な風景に思わず目を奪われた。
「そ、その…も、もうすぐ全部散ってしまうからっ……その前に一緒に見たいなって思ってっ…////」
―――爽子は人が見逃してしう“小さな感動”を見つけるのがうまい、と思う。
正直、俺一人だったら気にも留めない風景だけど、爽子がきれいだって“見せて”くれるとなぜか違って見えるから不思議だ。
それに舞い散る花びらに囲まれて喜んでいる爽子の姿は、桜なんかよりずっときれいだと思った。
「あの…ごめんなさい…回り道して行くほどのところじゃなかった…よね……」
俺が何も言わずにいたから、爽子は勘違いしたみたいで申し訳なさそうに謝ってきた。
「そ!そんなことないよ!!ごめん!きれいだったから見とれてた!」
「本当?…良かった。」
――本当は、景色じゃなくて黒沼だよ、とはとても言えなかったけど///
今度は俺が君に感動を。
ありがとうございました!
些細な日常生活の中にあるちょっとしたことで喜んだり楽しんだりできる、それが爽子の才能だと思ってます。
'08.11.16加筆修正