オブシディアン

□微熱
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ぽかぽか陽気のいい天気。グラウンドでの体育の授業も気持ちよい。
黒鋼の大きな声とホイッスルの音が響いて、生徒達も楽しそうにサッカーボールを蹴っている。
「……黒鋼先生の眉間のしわが多い」
「百目鬼、何言ってんだ?」
リフティングしながらぼそぼそと呟いた百目鬼を四月一日が訝しむ。
「黒鋼先生は調子が悪いらしい」
「え?黒鋼先生、具合悪いのか?それなら休んだ方がいいんじゃ……」
「いや、そうじゃない」
「ん?具合悪いんじゃないのか?」
「……調子が悪いらしい」
「だから、何が言いたいんだよおまえは!」
四月一日と百目鬼の会話はどうにも噛み合ってないが、黒鋼の調子は確かに悪かった。
(授業中だ集中しろ集中……!)
黒鋼の意識はファイに揺さぶられていた。しかしファイが黒鋼に何かを仕掛けたりしたのではない。
真っ昼間だというのに、黒鋼はファイを抱きたくて堪らなくなってしまったのだ。
最近していないというわけではなく、黒鋼は昨夜も存分にファイを抱いた。
昨夜のファイは大変積極的で、自分から黒鋼の体に跨がると、その大柄な体躯に細い指や柔らかな舌で愛撫を繰り返した。
蒼い瞳を潤ませて、黒鋼の上で腰を動かしながら甘い声を零すファイの姿は官能的だった。
そんな昨夜のファイを、あの乱れた姿をふいに思い出してしまったのがまずかった。
今は授業中だ、こんなことで集中出来ないというのは不謹慎極まりない。仕事とプライベートはしっかり分けるべきだ。そう考えれば考えるほど、黒鋼の欲情は膨れてしまう。
変なタイミングでホイッスルを吹いてしまい、先生どうしたんですかと生徒達に言われながらも、黒鋼はどうにか無事に授業を終えて昼休みに入った。
体育準備室に戻ると緑茶を淹れ、乾いた喉を潤して落ちつこうとする。
(今、あいつの顔を見たらやばい……!)
とりあえず、昼休みは体育準備室でおとなしくしていよう。そうだ、まとめておかなければならない資料があるんだった。弁当食ったらそれをやってしまおう、黒鋼がそう考えていた時だった。
「黒たん先生〜、一緒にお弁当食べよー!」
体育準備室の扉が勢いよく開いて、弁当袋を片手ににっこりと笑うファイが黒鋼の背中に軽く抱きついてきた。


きりきりと張り詰めていた理性の糸があっさりと切れる。


「お昼ご飯食べた後だから眠いかもしれないけれど、午後の授業も頑張ろうね〜」
腹が満たされて瞼が重くなっている生徒達に、ファイは穏やかに笑いかけて授業を始めた。
「……今度はファイ先生が疲れてるな」
百目鬼が小声でぽつぽつと呟く。
「そうか?」
百目鬼の隣の席で少し眠たそうにしている四月一日が、小声で疑問符を返した。
「ということは、黒鋼先生は元気になったのか」
「ファイ先生が疲れたら黒鋼先生が元気になるって、なんでだよ」
「そういうこともある」
「わ、分かんねぇ……!」

百目鬼の推測通り、午後からの黒鋼はとても元気で、清々しい顔をしていたのだとか。

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