オブシディアン

□贅沢な時間
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ふわふわと体が浮いているような感覚。
全身が柔らかいものにゆっくりと触れて、とても心地好くて瞼を開けてみると、彼の紅い瞳が見えた。
ここは黒鋼の部屋の、ベッドの上だ。

「ん……、オレ……寝ちゃってた……?」
「寝てたっつうか……、気絶だ」
「気絶……?」
ファイは曖昧になってしまっている記憶を手繰る。
互いの体の境が感じられなくなるくらい、何度も何度も繋がった。疲労と眠気で微睡む体を衝動が繰り返し貫いた。
そうしてファイは黒鋼に抱かれている最中に気を失ってしまったのだ。
かなり乱れていた自分を思い出すのは気恥ずかしい。
頬をほんのりと赤らめたファイは、ふと、シーツから香る洗剤の匂いと身に纏うボディソープの匂いに気がついた。
「新しいシーツに取り替えてくれたんだ」
「ああ」
「体も洗ってくれたんだね、ありがとう」
「軽くな。……無理させて悪かった。体、辛いだろ」
「んー、ちょっと大変だったけど、すっごく気持ちよかったよー」
ファイが目を細めてへにゃりと笑うと、金色の髪の毛を黒鋼が撫でた。
「でも、悪かったって思ってるなら甘やかしてくれる?」
ファイは全身を黒鋼の体にそっと寄せる。
「抱きしめて、いっぱい甘やかして」

甘やかしてとねだるファイの肌に黒鋼の手が触れた。
黒鋼に甘やかされて優しく優しく抱きしめられて、このまま眠るのが惜しいくらい、ファイは嬉しくて幸せだ。
けれど気持ちよくて、とても気持ちよくて眠たくなってしまう。
灼熱にも思えた欲情で体を重ねた後の、静かで緩やかで少しだけ贅沢な時間だ。

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