ラピスラズリ

□叫び
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この国の桜は綺麗だねと呟くと、綺麗だろう、と、君が自慢気に笑った。

黒鋼の持つ杯にファイはお酒を注ぐ。月明かりは美しく、桜の花は咲き誇っている。
夢の様だ、とファイは思う。
「黒様」
「何だ」
「大丈夫?もう横になったら……」
黒鋼の義手はファイの心に焼きついて残るだろう。黒鋼に悔いは無くても。
「寝てばっかじゃ鈍っちまう」
「でも、無理はだめだからね」
「分かってる」
黒鋼は杯を一気に飲みほすと、ファイを抱き寄せる。
「黒様……」
「無茶はしねぇよ、触れるだけだ」
「うん……」
黒鋼の両手はファイを慈しんで離さない。いつだってそうだ。
「……辛いか?」
「……うん」
「今は泣けばいいだろ」
「……う、ん……」

ファイ、逢いたいよ。

何もかもが夢であってほしいと願った時があった。
喉の奥が熱くて、黒鋼の肩に額を擦りつけて泣いた。

「オレ……、オレ、寂しいよ……」
「ああ」
「く、黒様の腕が……っ、もう……っ」
「そうだな」
「王……っ、の、願いも、悲しかった……」
「ああ」
「小狼君……も、サクラちゃんも……、きっと痛かった……っ」
「ああ」
「……オレは、ファイに逢いたかった!」
「そうだ」
「ファイに、楽しいことや嬉しいことを、伝えたかった……、ファイ、が、ファイの大切なひとの傍で笑うのを見たかった……、ファイと一緒に居たかった……、ファイと一緒にお酒を飲みたかった……、ファイと一緒に生きていたかった!!」

叫びは届かない。

だから、叫びを抱いたまま、生きて。

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