オブシディアン

□温い水の中で
1ページ/1ページ

淡い水色に染められた着物がふわりと落ちる。白い肌が月の光に透けて、どこかの世界で見た絵を思い出した。
「……見ないでよ」
「いいじゃねぇか、もっと見せろ」
「やぁ……っ」
逃げるファイの身体を黒鋼は引き寄せて首に噛みつく。舌でくすぐるとファイが笑うから黒鋼も目を細める。

温かい時間。

小狼とさくらのことを想うとこの時間は傷を裂く。黒鋼の義手に血は通わず、ファイの左目は空のまま。
「伸びたな」
「今更だねぇ」
「まぁな」
月の色の柔らかい髪の毛に指を絡ませると、どうしてか落ち着く。好いたひとの傍は心地好いものなのだと黒鋼は知った。
離れたくなくて、もう入ってしまいたくて、ファイを欲しがる。
「……もぅ……だめだよ」
「足りねぇ」
「ちゃんと休まなきゃ、ね?」
「足りねぇんだよ」
唯一の存在を貪欲に欲するのは本能なのだろう。
肌を舌で濡らし時折強く吸い上げると、ファイは身体をしならせた。

温い水の中で遊んでいる。

緩やかな時を今は望むべきではない、けれど……

疲れて眠るファイの顔を見ていた。慣れない左腕でその身体を抱き寄せた。右手で頬に触れてみた。まだ少し火照っているのが気持ち良い。


あの願いは叶わなかった。


叶わなかった願いの先に在る今をこんなにも愛しいと想っても、間違いじゃない。
ふたりの確かな路だ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ