オブシディアン

□古いスタジオ
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自分達が産まれる前に流行っていたらしい洋楽を大音量で鳴らす。高く跳ねるリズムと重い低音が身体の中に響いて震え、互いの声は激しい歌に混ざって踊る。
叫ぶように声を放つのが気持ちよくてファイは夢中になってしまう。黒鋼がファイの背中を強く抱きしめたまま突き上げるから、喉は渇いているのに身体中が濡れていた。

ファイの祖母が使っていたという、この古いスタジオはファイの気に入りの場所だ。古いけれど丁寧に手入れしているし、防音壁だって調えられているから好きな音楽を遠慮せずにめいっぱい聴ける。
自分の部屋よりも居心地がいいから、ここで音楽を聴きながら本を読むのがファイは好きだった。ここはもうずっと、ファイだけの場所だった。
紆余曲折を経て黒鋼と付き合うことになった時にファイは黒鋼をこのスタジオに招き入れた。
恋人だからしたいことがあるし、ここは誰にも遠慮しなくていい。そう考えていたのも確かだったし実際その通りだった。
音楽を聴きながらセックスをするようになったのはいつ頃からだったか、そんなに遠くないことのはずなのに記憶は曖昧だ。
音に身体が揺れて頭の芯からぴりぴりと伝う感覚は、快楽とも違う。
これはきっと、本能だ。

「くろっ、あ、はぁっ、気持ちいっ…ぁあっ!」
「っ、何言ってるか…分かんねぇって…っ!」

意識が千切れそうになってファイはでたらめの歌詞で歌った。それは黒鋼にも自分にも聴こえなかったけれど、何故か、幼い頃から知っている歌なのだと思えた。

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