オブシディアン

□針
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泣き声がとても遠い。
ギシィ、ギシィと床が軋む。壊れるかもしれないが壊れても良い。
きっかけはただの口げんかだった。
約束を忘れていたとかそれを悪いと思っていないとか、よく在る口げんかだった。
なのに何故だろう、黒鋼の感情は深く鈍く澱み、嫌がるファイの腕を掴み身体を引きずり冷たい床の上で無理矢理抱いた。
「痛っ、い……!」
幼い支配欲で身体を強引に貫いて泣かせているのに、それでも黒鋼はファイを抱く。

だめだ、
だめだ、
どうして、
俺は、

「あ、ぁ……、やぁっ、ん……っ」
泣き声に喘ぎ声が混ざって黒鋼の欲は炎の様に煽られる。
苦しいのに気持ちが良い。
澱んだ感情をファイの中にどろどろと注いで、ようやく黒鋼はファイを見た。蒼い目が涙でぐしゃぐしゃに濡れている。けれど、黒鋼をまっすぐに見ているその目に怒りは無かった。

悲しい、
悲しい。

「……悪、かった……」
喉から絞り出すように声を言葉にした。
自分がしたことから逃げてしまえば、ファイからも逃げることになってしまう。
「……こんなのは、もう嫌だよ……」
ファイの弱々しい声が細く鋭く針の様に突き刺さる。
出来るだけ、出来るだけ、そっと抱きしめる。二度とはしまい、とは言えなかった。
大切なひとを傷つけるということは自分を傷つけるということだ。
分かっていて繰り返す、どうして愚かなんだろう。

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