オブシディアン
□朧
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目が覚めた時にはもう、黒鋼はいなかった。
ああ、自室に戻ったんだな、と思った。
セックスが終わってしまえば一緒にいる理由も無いのだと、突き放したのはファイだった。
だから今ここに黒鋼はいない。
空しい。
ひどく空しくなる。
こんな気分になるのなら体を重ねなければいいのに。そう、頭では思っていても、ファイの身体が叫ぶ。
欲しい、欲しい、と。
黒鋼の血の匂いはファイの全てを揺さぶった。他人の血とは何もかもが違う。
このひとのだけ。
黒鋼の血を飲んで食欲が満ちればまた空しくなる。それが嫌で嫌で、ファイは黒鋼の体に手を伸ばす。
欲しがって突き放して、また欲しがってを繰り返していた。それでも黒鋼は自分から目をそらさない。
それが苦しくて、悲しくて、嬉しいのだ。
「歪んでる…」
黒鋼と体を繋げていれば、自分は黒鋼から逃げられない。
逃げなくて、いい。
傍にいてもいい。
結局は理由が欲しかったのだ。
満たされず、空しくなるのだと分かっていても、黒鋼の傍にいたかった。
もう、どうしようもない。