ラピスラズリ

□刹那
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―このひとと自分は何もかもが違う―
出逢う前からずっと、そう信じていた。

羽根をひとつ取り戻して突きつけられた現実は、少年の心をどれほどに抉ったのだろうか。それでも、大切なひとに見せたのは笑顔。
雨が小狼の体を冷やしていくのをファイは黒鋼と共に見ていた。小狼の巧断が彼を慰めるように寄り添っている。
「今は…泣いてるのかな」
「さぁな。けど泣きたくなきゃ強くなるしかねぇ。何があっても泣かずにすむようにな」
「うん、でも」

「泣きたい時に泣ける強さもあると思うよ」

その時、小狼を雨から覆い隠すように大きな翼が広がった。
(あ……)
ファイに憑いた鳥の巧断と黒鋼に憑いた竜の巧断が、その翼を開いて小狼を雨から守っている。
痛みを推し量ることは難く、傷は容易く癒せない。せめてこれ以上、小狼の体が濡れてしまわないように、冷えてしまわないように……。
小狼を想うファイの心に呼応して鳥の巧断は現れた。驚いたのは、黒鋼の巧断もほぼ同時に現れたことだ。
巧断は自分の心に呼応するもの。だとしたら黒鋼もファイと同じ想いを懐いていたのだろうか。
(オレも……君と同じ……?)
ファイはそっと、黒鋼を見る。
黒鋼。日本国の若者。魔女の一手。
このひとと自分は何もかもが違うのだと信じていた。
彼と自分が同じ想いを重ねることなどあるはずがないとさえ思っていた。そう思い込もうとしていた。

けれど、この刹那。
ふたりは確かに想いを重ねている。

翼は少年を守る為に、雨の中で大きく、強く、優しく咲いていた。

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