仕事として、明らかにいかがわしいと言える店に潜入捜査をすることになった。

そこで俺は無理矢理、貰っただけなんだ。
決して自ら欲しい、だなんて言ったわけじゃない。
欲しいなー、っていうオーラを醸し出したわけでもない。

なのに「仲良くね」と一言告げられこの、布切れ(そう言っても過言ではないだろう)を掌に握りこまされた。
何のことか、とキョトンとしていると「愛しの彼に、よ」と耳元で囁かれ、驚きのあまり放心していれば、気持ちの悪いウィンクを真っ向から食らわせられてしまった。

まるで降参を受け入れたかの如く、掌からはみ出た布が白旗のように俺の震えに合わせて揺れた。





「というわけで穿いてください、お願いします。」

「…は?」


その日の晩、一世一代とも言える決意とともに副長室へと足を運んだ俺は、入室許可の答えと同時に土下座の態勢となり、副長の前に今日の戦利品である純白の紐パンを崇めるように差し出した。

訝しむような顔と、蔑むような瞳に耐えながら今日の報告をし、これ以上にない真剣な顔つきでガバッと頭を下げ頼んでみれば案の定、ポカンと口を開けて理解不能と唖然としてる土方さんがいた。
少しだけ、いやすごい可愛いなあ、とか思ったり。


「いや、だからこの白い紐パンを穿いてください。ってだけです。簡単ですよ?」

「何が簡単なんだァアァァ!!意味わかんねぇし、なんでこんなもん俺が穿かなきゃなんねぇんだよ、つか男がこんなくだらないことで頭なんか下げてんじゃねエェェェ!」

「副長、しー。うるさいですよ。みんなもう寝ちゃってんですから。」

「あ、そうか、悪い。……ってんなこと気にしてられっかよっ!」

「いだっ、」


羞恥のあまりか(副長ったら意外に初心なんだから)真っ白な汚れのない紐パンを目にし、顔を真っ赤に染めた副長はここぞとばかりに俺を怒鳴り散らしてきた。
そのあまりの声の大きさに焦りつつも「静かに」と、人差し指を唇に当てれば一度は納得した副長も、見事なノリ突っ込みで俺の脳天に拳を一つ落とした。

刀じゃなかっただけまだましだろうか。


「ったく、阿呆らし。…俺は疲れてんだ、寝るからとっとと出てってくれ。」

「えー…」

「えー、じゃねぇよ。テメェもさっさと寝ろ、山崎。」


そのまま、汚いものを触るような手つきで紐パンを掴みベシッ、と俺に投げ捨ててきた副長。
そんな副長を改めてよく見れば(紐パン姿の副長しか頭になかったから現実の副長はよく見ていなかったのだ)本当に寝るつもりだったのか、敷かれた布団のうえにあぐらかいて座っておりすでに寝巻に着替えていた、ということに気付いた。
ちらりと見える太ももがなんとも艶めかしい。


「じゃ、おやすみ。」

「…なんですか、沖田さんにはされるがままのくせに…」

「……あァ?」


そして、もう事は終わった、というかのようにすっぽりと布団を被って完璧に寝る態勢をとってしまった副長に少なからず苛立ちを覚えた。
そんな苛立ちからか、思わず口をついて出てしまった隊長の名前に、ピクッと副長が反応をした。
ハッと顔を見上げれば、不満げな表情で布団から顔を覗かせている副長がいた。


「あ、いや、あの…そんなんじゃ…!」


無意識の内に発してしまった台詞にしどろもどろになりながら必死に言い訳を考えていると、副長の眼光がギラリ光った。


「だれが総悟の言いなりだって…?オイコラ。」

「い、いや!そんなつもりじゃ…」

「上等だァ!!紐パンでも網タイでもなんでも穿いてやらァアァァ!!」

「本当すみませんんんー!!…って、え?穿いてくれるんですか?」


隊長の言いなり、ということが気に食わなかったのか(そう言ったつもりはなかったのだけど)バッと布団から跳ね起き再び怒鳴った副長は、俺の平謝りを無視し手元にあった白い紐パンを、今度はもぎ取ってそんなことを言った。
そのままの勢いで己の寝巻に手を掛けはじめる。


「え、副長本気なんですか!?」

「本気だ、つうかテメェが穿けって言ったんだろ!文句あんのか!」

「いや無いです。どうか穿いてくだい。」


正直、自ら進んで紐パンを穿きはじめる副長に戸惑った俺は、過ちを犯す前に止めようと試みたが、眠たいのか少しだけ微睡んでいる副長の瞳と、その手に握られている輝かしいほどの純白の紐パンに負けてしまい、その思いははかなくも砕け散った。

すっかり黙ってしまった俺にすっきりしたのか、副長はサッと自分の下着に手を掛け脱ぎはじめた。
まだ寝巻を着ているため肝心な部分は見えていないが、前かがみになったおかげで開いた胸板や裾の隙間から覗く白い生足が、とてもいやらしく思えた。

そんなことを考えていれば、副長は脱いだ下着をその辺に放り投げて、今まさに紐パンを穿こうとしているところだった。
しかしどう穿けばよいのかわからなかったのだろう、しばらくの間紐パンを見つめ、首を捻っていた。


「…副長、もしかして穿き方わかんないんですか…?」

「なっ!…なわけねぇだれ!こんくらい穿けるっ!!」


…図星だ。

もしかして、と思い聞いてみればわかりやすいほどの反応を副長は返してくれた。
顔が熟れたりんごのように真っ赤でした。

その、あまりの形相に(可愛かったのには間違いないのだけれど)何も言えず、俺はにこやかな顔をしながらも黙って紐パン穿く副長を眺めていた。

それからが長かった。
この人はどこまで不器用なんだろう、と思うほど遅い手際に何度手を加えたいと思っただろうか。
片方を結べば、片方がほどけ。また片方を結べばもう片方が再びほどける。
必死になって穿こうとしている副長は可愛らしいだが、その姿は見事にはだけた寝巻に下は穿きかけの紐パン一枚のなので可愛らしいと言うよりは、あまりにも淫らだった。


「ふ、副長…」

「穿けたっ!」


ゴクリ、と生唾を飲み込んでしまうのと、副長が両端を綺麗に結んだ紐パンを俺に見せてくるのは同時だった気がする。
深い紺色の寝巻を捲り上げて、惜しみなく自らの体を差し出してくる副長。(解釈が違うというのはあえて聞かないことにする)
紺色の布地に映えるようにすらりとのびた白い足や、一見純情そうに見えてしまう白色の紐パンを目にした途端目眩がした。


「どうだ!」

「…うわ、副長…やらしい、…」

「なっ…!」


まるで小さな子供が、自分でボタンをしめれたときのように成功を自慢してくる副長の姿に、頭がクラクラとした。
もういっぱいいっぱいになりはじめた俺が、とぎれとぎれにそう答えれば今頃自分の格好を認識したのか、カァっと体全体を真っ赤に染め上げ、きまりが悪そうにうろたえる副長がいた。


「あ、…、!」

「副長…」


羞恥のあまりか、副長が口をはくはくさせ言いたいことが言えなくなっていることを良いことに、理性の糸が細くなってきていた俺はそっとその体を布団に組み敷き、その唇を奪ってやろうとした。
さりげなく己の手がパンツの紐へと伸びていて、やはり欲望には勝てないな、と他人事のように思った。


「やま、…き…!」

「副長、……土方さん…」


「随分と楽しそうですねィ、お二人さん。」


あと少しで触れられるという距離まできたとき、少しだけ高い、まだ少年の声が俺の頭に響き恐る恐るその声の方向に首を傾けた。

見つめた先には、腕組みをしながら柱の部分に体を預け、睨み付けるように前を見ている沖田さんが立っていた。


ああ、悪魔の降臨だ。

ちらりと副長を見れば、俺と同じく呆然としていておまけに少し涙目になっている。

自分にこの先の未来を、しっかり生きれるか不安になった。


「あれ?土方さん、随分とやらしい格好してますね。」


俺たちが何も言えず、黙っていれば沖田さんはツカツカとこちらへ歩み寄り、副長の姿を一目見てわざとらしくそんなことを言った。

平然としながらも目が据わっている隊長に恐怖がおそってきたのか、副長が少しばかり俺の服をつかんでくる。




 
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