その、無意識のうちの副長の行動がさらに隊長の怒りを煽ったのか、張りつけた笑顔のままぴくり、と眉毛が動いた。
背後のどす黒いオーラが一瞬見えた気がした。

ゾッ、と悪寒にも似た震えが背筋に走り、その所為で(そのおかげで、と言うべきだろうか)隊長のさらなる憤りに気付いたのか、まるで懺悔のように副長の唇がゆっくりと開き、たどたどしく隊長の名前を呼んだ。


「そ、…そう、ご…」

「ははっ、へたくそですねィ。片方、ほどけかかってまさァ。…自分で穿いたんですか?それとも山崎に?」


呼ばれた隊長は副長のそばに跪き(その時の俺といったら未だ副長のうえに乗っかっているのだが)愛でるようにそのあごに手をかけ、そんな台詞を囁いた。
甘いフェイスに低い低音ボイスで、それはもう世の女性を一瞬にして虜にするほどの色っぽさを交えており、俺でさえドキリとしてしまうほどであった。

言われた副長はというと、その台詞の影にある意味を汲み取ってしまったのか、しばしの間うっとりした表情をしたものの、イヤイヤと顔を振り「ちがっ…!」と否定の言葉を口にしただけなのだが。


「何が違うんでさァ。…っと山崎、いい加減退けなせェ。」

「……、はいィィイィ!」


口元を釣り上げ、ますます笑みを深める隊長に寒気がしながらもそんな姿を唖然と見つめていれば、名を呼ばれ冷たい瞳で睨まれてしまった。

あまりにも突然声を掛けられたので、一瞬何のことかと呆然としていればカチャ、と刀に手をかける音が俺の耳に届き、すぐさま副長の上から飛びさった。
あと少しでも退けるのが遅ければ、消されていただろう。
確実に頭と胴体がおさらばする、という状況に陥ってしまっていたと思う。

そんな恐怖からか自然と、逃げたその場に正座になってしまい、副長に触れはじめる隊長を情けないことに腰の抜けた俺は、ただただ黙って見ていることしかできなかったのだ。


「…さてと、土方さん。なんでこんなえーっちぃパンツ穿いてんですかィ?」

「あ、…や、その…」

「自分から穿いたんですよね?」

「ぅ、あ…」


いつのまにか隊長は副長の後ろに立っており、耳裏を舐め回しながらその耳に直接息を吹き込んで、副長を問いただしていた。
時折、下のほうへと手をのばし幾分長すぎた、パンツからのびる白い紐を指で弄んだりしている。

明らかに淫猥な雰囲気を醸し出し始めた副長たちに、戸惑ったものの恥ずかしくも俺の腰は抜けてしまっているため、この状況から脱出できそうにはなかった。


「ぅ、ん…や、めろ…!」

「そんな、喘ぎながら言っても説得力なんかありゃしないですぜ?」

「…そう、ご、ぉ…!」


目を逸らそうにも、何故か逸らすことのできない眼前の光景に俺はすっかり飲み込まれてしまったのだ。

止まらない淫らな雰囲気に、気がおかしくなってしまいそうだった。


「ほら、土方さん。山崎が土方さんのやぁらしい姿、食い入るようにみてますぜ?」

「…!やめ!…見ん、な、ぁ…!」

「なに言ってんでィ。こんなパンツ穿いてる自分見られて嬉しいくせに。」

「んぅ…」


完全に落ち始めてきた副長は、目がトロンとしてきて嫌がりながらもどこか嬉しそうに見えた。

そんな副長を見て、ケラケラ笑いながらとわざと羞恥を煽らせるような台詞を隊長は言う。
そんな言葉の中に名前を出された俺にも羞恥が襲い、恥ずかしくも俺の顔には一気に熱が集まり始めた。

頬が熱くなるのを感じながら目の前の副長を見れば、いっぱいの涙を目に溜め込み体を真っ赤に染め上げながら、またもや嫌々と顔を横に振っているのが見えた。
なんとなく、隊長が飽きずに副長のことをからかう理由が、よくわかった気がした。

そんなサディスティック星の皇子はというと、副長の泣きながら嫌がる姿に気を善くしたのか、にっこりと柔らかい笑みを浮かべたあと(しかしそれは、すぐさまあの加虐趣味な笑みに戻ったが)後ろから無理矢理副長の唇を奪い、濃厚なキスをし始めた。

きつい体勢で苦しいのか、副長の眉間にしわが寄るもやはり、その表情はどこか喜んでいて少し心が痛んだ。
隊長も隊長で、あんな風に蔑みながらも副長を見つめる瞳にはしっかりと愛しさ含まれており、現に熱いキスを繰り広げている今も愛しそうに副長の黒髪に指を通し、その感触を楽しんでいるのだ。


…ん?あれ?
よく考えればこれ、思いっきり見せ付けられてんじゃね?

ちょっとセンチメンタルな気分になってたはずが、そんなことを思い始め確認のようにちら、っと隊長を覗き込めばいやらしい水音をわざと鳴らしながらこちらを見て、勝ち誇ったように口元を釣り上げていた。


「っ…!そうっ…ご!」


一気に二人の人間を精神的に追い詰めることのできる、ドSの申し子に開いた口が塞がらなくなっていれば、もはや完璧に手中に収まってしまった副長が、それはそれは甘い声を響かせ始めた。
その目にはもう快楽と悦楽しか映っておらず、副長はただひたすらに求め始めていた。


「なんだィ、山崎。羨ましそうな顔して。」


少しばかり腰を揺らし始めた副長に、些か(というのはもっとも、嘘に近いが)欲情し始めてしまった俺は、胸を弄りながら満足気に笑う隊長の姿に唇を噛んだ。
しかし、俺の頭の中には悔しい、という感情より副長の艶やかさにあてられてしまいあの人に触れたい、という欲の感情のほうが勝ってしまっていた。


「副長…、」

「土方さん気持ち良さそうですねィ。」

「あっ、やめ…!」


多少の混乱と色欲に戸惑いながらも乱れた副長に対して熱い吐息をこぼせば、ニヤリとこれまた嬉々とした笑みを浮かべた隊長が穿いてるパンツの紐を口に軽く噛み、ゆっくりするするとパンツの紐をほどいていった。


「そ、ご!やめ、っ…!」

「嘘。腰、ゆれてますぜ。…欲しいんでしょう?」

「…ぁ、う、」


それなりに長く作られていた紐は、隊長が屈まずともほどけることはなくそれはそれで隊長のことを楽しませているようだった。

そんなことを含めて機嫌がよくなり始めた隊長は嫌がる副長の耳元で、まるで秘め事を囁くように堕ちるカウントダウンの台詞をつぶやいた。
もちろんその間にも結び目はどんどんと緩くなっていき、片方の紐はすでにほどけかかってきていた。

すると、観念したように小さく「そうご…」と副長は、顔を赤らめ先を促すよう喘ぐように告げた。

満足気に隊長が、口元を吊り上げる。


「限界ですかィ?」

「…ん、」

「そうですか。…ということで山崎。さよならだ。」

「……はい?、ってエエェェェ!?」


完全に理性がなくなってしまったらしい副長に対して、呆然とただ目を逸らせずにいると気分はすっかりその気になっている(初めからそうではあったが)隊長に正面から刀を突き付けられ、あまりにも理不尽とも言える死の宣告をされた。


「いやいやいや!な、なんでこの世とさよならしなきゃいけないんですかっ!!そ、それに俺まだこ、腰が…」

「なんでィ。俺と土方さんのニャンニャンを見てェんで?」


本気でこの先にいこうとするらしい隊長に驚きながらも、どこか見てみたいと思っている自分がいることに俺は気付いていた。


「え、隊長がニャンニャンとかって……じゃなくて!あんたら、ほんとにここでおっ始める気なんですか!?ちょっと副長もなんか言って…」

「ぁ、…やまざ、き、でてけ、よ…」

「…っ」


焦った俺が助けを求めるように副長へと目を向ければ、さんざん隊長にいじられたせいか、全身を真っ赤に染め上げ喘ぐような荒い息をくりかえす副長が、そう苦し気に伝えてくるのがわかった。
もはやただの布切れと化してしまた純白の紐パンが、朱い肌に映えていた。


「…ああ、ちなみに、てめェもここでおっ始めようとしたこと、忘れんなよ。」

「……」


いつになく憤りを表すその表情に何も言えなくなってしまえば、いつのまにか外に摘み出される。
そのまま唖然としていれば、襖の向こうから色っぽい声が聞こえてきて俺は深い溜め息を吐いた。

やはり、あの悪魔の大切なお気に入りに手を出そうとしたことが間違いだったのだろうか。

しかしながら、未だ諦める気など更々ない自分に気付き、悲しくも動かない下半身に嘲笑をしまた一つ呆れたように溜め息を吐いた。




欲望には蓋をしましょう。

(溢れだしたら?)
(そんなの、止められないよ。)





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