メロン生地

□四年目の正直
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ひらり、と姿が見えなくなって。


慌てて駆け寄り見ると、軽々と着地に成功している姿が映った。

ゴールドはそのまま後ろ手にひらひら手を振り、一度もこちらを振り返ることなく自分の家に入っていった。

いつもと変わらぬ様子に怪我をしていないことを悟り、ほっと胸を撫で下ろす。



そうだ、ゴールドは無駄に運動神経がいいんだった。

“常識”なんて言葉が一番当てはまらない。

心配して損をした。



「ちゃんと扉から出なさいよ、ね……?」


文句を言いながらふと視線が辿ったベッドの上。

ゴールドが座っていたあたりにちょこん、と鎮座している――小さな箱。


まさか――。


諦めていた心が奥に追いやられ。

一抹の期待にも喜びにも似た何かが胸に宿る。


思うだけ無駄なのだと言い聞かせても消えてくれないそれらを抱いたまま、おそるおそる小箱を手にとった。



水色の包装紙。黄色のリボン。


底面にはリボンに挟まれた、四つ折りの白い紙。



抜き取って開いてみると、真白い紙の真ん中に一行だけ、黒が走っている。

他に飾り気は何一つない。


それでも――クリスは緩んでいく口元を、頬の筋肉を、緊張させられそうになかった。





確かにゴールドの文筆で書かれた、“誕生おめでとう”





「日、が抜けているのはわざとなの?」


憎まれ口を叩いたって、その一言はクリスの心にずっと反響している。


覚えてて、くれたんだ。


ずっとずっと前に、一度言ったきりの誕生日。

一年経つ毎に、やっぱり覚えてるわけないって勝手に落胆していた、今日という日。



「……ありがとう」


小箱と紙を、きゅっと胸の前で握りしめた。

そっと机の上に置いて、出かける支度を始める。


ちらりと視線を走らせた向かいの家、二階の部屋。

開け放たれた窓の向こうに帽子を被ったままの黒髪を確認して、クリスは部屋を出た。





まだ今日は、半日以上残っている。








〜END〜





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