べたべた生地
□欲望を前に崩壊する
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「…ぅーん……」
寝返りを打って、壁側を向いていたサファイアの顔がはっきり見えるようになる。
年相応のあどけない顔。
変な夢(彼女に限って悪夢なんて繊細なものはあり得ない)でも見ているのか、眉はしかめられ、口は一文字に引き結ばれている。
ベッド脇にしゃがみこんで、髪を流すように、サファイアの頭をそっと撫でた。
一瞬、撫でることに逡巡したのは、触れあった部分から僕の想いが溢れてしまわないか危惧したからだ。
それでも、触れたかった。
純粋に、彼女の不快感を取り除いてあげられたら、と思って。
欲望に負けやしないかと不安にかられたが、心の波は予想に反して随分穏やかだった。
「サファイア…」
……嘘だ。
どきどきしてる。
穏やかだった波は徐々に大小の間隔を広げていって、波打つ速度が小刻みになっていく。
やっぱり触れないほうがよかった。
じわじわ僕を侵食していく欲望を、自覚する。
「サファイア…起きて」
頭を撫でていた手を移動させて肩を揺する。
きっとこれが最後の忠告だ。
いや、もう警告か。
今サファイアが目覚めたら、汚い欲に染まった表情を見られることになるけれど。
沈んで、溺れて、サファイアまでそれに濡らすことだけは回避できるから。
「う―――……?…るびー…?」
睫毛がふるふると震えて、瞼の下からまだ光の宿らない碧の瞳が現れる。
とろんとした寝ぼけ眼。
左目を擦りながら見上げられる。
溶けかけていた理性を繋ぐ一本の糸が、ぷつんと切れた。
「…ルビー?なんね?」
目を擦っていたその左手を掴み、くんと目の前まで引っ張る。
その感覚で意識をしっかり覚醒させたサファイアがきょとんとした顔で瞬きする。
僕は顔を俯けてサファイアを見ないようにした。
…いや、サファイアに映る僕を見たくなかった。
お気に入りの帽子が前にずれて影をおとす。
今僕が掴んでいるのは、サファイアの手首。
僕の手が触れているのは、サファイア。
――衝動が止められない――…。