べたべた生地
□欲望を前に崩壊する
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部屋に入って一番に目についたのは、人のベッドの上で我が物顔で眠る野蛮な幼なじみだった。
*欲望を前に崩壊する*
「また勝手に入ったな…」
風で揺れるカーテンを見、ため息をつく。
幼なじみ――サファイアはいつもこうだ。
僕のいない間に無断で部屋に入り込み、誰の許可をとってかベッドで眠り、僕が戻るのを待っている。
「全く…風邪引くよっていつも言っているのに」
彼女専用のタオルケットを取り出してかけてやる。
うにゃ、と、寝言とも寝息ともとれる声を出したが起きる気配はない。
そのあまりにも無防備な寝顔に、とくんと心臓が波打った。
幼なじみとはいえ、仮にも年頃の男の部屋―それもベッドの上だ。
仮にも年頃の女の子がとる行動にしては危機感が無さすぎる。
――信頼されて、いるのだろうか。
それとも理性を試されている?
これは僕への試練か。
隣で無邪気に笑うキミに邪な感情を抱いてしまった僕への、天罰か。
「……人の気も知らないで」
結局、幸せそうな寝顔を揺すり起こすことなど出来ないのだから。
いつから焦がれるようになった?
いつから、この距離がもどかしくなった?
手を伸ばせば触れられる。それなのに触れられないのは、僕が手を伸ばさないからだ。
――だって、怖いんだ。
笑いあって、時には喧嘩もして…それでも一緒にいる。
付かず離れずな今の関係を気に入っている。
いつでも気をおく必要がない空間の中にいるから。
それを壊すのが、怖いんだ。
壊したくないんだよ。