こげこげ生地
□青い月
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三つあるうち、青く光る月が強く輝きを放つ夜。
なかなか寝付けなかった俺は、横になって瞼を伏せつつ意識を鮮明に持っていると、瞼の向こうで揺らめいていた炎が不自然に揺らいだことに気付いた。
ザッザッと草地を踏む足音が聞こえ、遠ざかっていく。
(今の火番は…輝二?)
気配を感じなくなってから目を開け、ゆっくりと体を起こす。
仲間達を確認するとやはりそこに輝二の姿だけがなかった。
追いかけようとして、しかし戸惑われて浮かしかけた足を踏み留める。
(どうしよう…)
見張りも無しに、眠っている仲間達を置いていくことは出来ない。
俺の中の優先順位の最善はもちろん輝二だが、比較して迷うくらいには仲間達も大切だった。
どうすることも出来ず時間だけが過ぎていく中、焚火が一際大きく音を立てた。
「…う、ん…」
「!」
誰かが起きたのかと声のした方を見ると、ちょうど拓也が寝返りを打つところだった。
眉根を寄せて顔を顰めて眠っているその表情から眠りが浅いことを、目覚めが近いだろうことを知る。
――次の見張りは彼だっただろうか。
気配を殺し、音が立たないよう注意を払いつつ足を忍ばせて近づいたのはきっと、焚火の炎が青い月光を惑わしていたからだと思う。
彼の傍らに片膝をついて見下ろすと、焚火の光を遮る形になって影を落とす。
……悪い夢でも見ているのだろうか。
額にはうっすら汗がにじみ、前髪がそれを吸って張り付いている。
――それは、無意識下の行動だった。
(っ!俺は……今、何を……)
反射的に屈めた身体をばっと起こし、口を手の甲で覆う。
後ろに引いた足が地面と擦れてじゃりっと音を立てた。
……張り付いた前髪を軽く払った、まではいい。
そのあとに、
(その後に……)
手はそのまま、拓也の頬に添えて。
顔が熱くなる――自分の無意識の行動に。
(…俺は、拓也に…)
拓也の額に、口付けを落とした。
――汗で湿った感触が唇に残って、消えない…。
「っ…」
一歩、二歩、拓也から距離を取って踵を返し、走った。
草木をかきわけながら行く宛もなく、ただ我武者羅に。
……拓也から、逃げた。
月が雲に隠れ辺り一面が暗闇に包まれたときになってやっと我を取り戻し、足を止める。
呼吸が上がり、心拍が一つ一つ強く打ち付ける。
後方で赤く灯していた火はもう、見えない。
…一体何をやっているんだ、自分は。
眠っている仲間に、それも男である拓也に、額であれどキス、だなんて。
子供同士のおふざけと言えば通じるかもしれないけれど、あの雰囲気を作った自分からしてみればそれとは違うものだと理解している。
そもそも自分は、輝二を追いかけるか仲間を守るために火の番をするかで迷っていたはずなのに……。
結局仲間たちから離れて、輝二を追うでもなく走って――。
…――今、記憶に覚えのない見知らぬ場所にいる。
……………どうしてこうなったんだ。
〜end〜