こげこげ生地

□気づいて、惹かれて
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ずっと追いかけていた。


俺を見てほしくて、俺の存在に気づいてほしくて。

勇気を出せないばかりに、背を見つめることしかできなかった。





運命の時がやってきて。


闇にのまれて敵対して。

ずいぶん遠回りをしてしまったけれど。



やっと、出逢えた。



これからは手を取り合って、肩を並べて歩いていける。

もう追いかける必要はなくなるんだって――。そう思っていた。






……惹かれてしまったのが、いけなかったのかな。





俺の存在に気づいてもらえたばかりなのに。

俺を見て、笑ってもらえたばかりなのに。


ずっと追いかけていた弟に、輝二に。

望んでいた願いが叶ったばかりだというのに。




いつから、欲張りになってしまった。




彼にも、俺を見てほしい、なんて。





(神原、拓也)




輝二と同じ電車にいて、同じエレベーターに乗った彼。文字通り、飛び乗った彼。


彼は俺の存在に気づいていた。

俺が見たのとは違う彼が、輝二を見つめる俺に気づいていた。気づいてくれていた。


輝二よりも前に、影の中にいた俺という存在に。




仲間になって、輝二からたくさん話を聞いた。
仲間たちからも、話を聞いた。

旅の話。冒険。


輝二と一番近い位置に、彼がいる。


輝二が心を許した人物のことを知りたくて、俺に気づいた彼のことを知りたくて。

ずっと、見ていた。

輝二の傍にいる、彼――拓也を。



見ていたから、気づいてしまった。


輝二を一心に見つめる、彼に。




…惹かれて、しまった。






(かなわない)



かなわないと、悟った。


だって、同じだから。

俺と輝二は、同じだから。


拓也が輝二を見つめるように、輝二もずっと、拓也を見ている。

でも、二人ともお互いを見ていて、心までは見えていなくて。



(最初から諦めている拓也と、見当違いな心配をする輝二)



まったく、世話が焼ける弟たち、だよ。



拓也にも輝二にも、俺は恩があって。

二人とも、とても大切な存在だから。



拓也と輝二が、大好きだから。



二人が幸せそうに笑ってくれるためなら俺は、何だってしよう。

その背を、後押しすることだって――…。





「……好きになって、ごめん…」




――だけど、もう少しだけ待ってくれ。



絶対に悟らせないように、頑丈に幾重にも鎖を巻いて、雁字搦めにして。

自分だけの心の奥底に封じ込めた想いが、この先ずっと溢れだしてしまわないように。



もう少しだけ、時間を。







(そんな時間はもう残されてはいなかったけれど、そのときの俺はまだ何も知らなかったから)
 

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