メロン生地

□付き合い方
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やわらかい笑顔。


「レッドさん…」

「イエロー…」


見つめあって、漂うのは甘い空気。

桃色ピンクなオーラとハートとふわふわした何かが見える気がする。

二人の間には花が咲いている。


あれでいて付き合っていないのだから、世の中不思議なものだ。不条理だ。理不尽だ。


そのまま観察していると、とろけた二対の瞳がはっと現実を取り戻し。

一瞬にしてぼっ!と。

互いに顔から火が出るのではないかと思うほど、真っ赤になる。



イエローはあわあわと下を向いて。

レッドはうろうろと視線をさ迷わせて。


初々しいったらありゃしゃしない。腹立たしいほど。



まるで、付き合いたての恋人同士。

青い春、青春してるってきっとこういうこと。



(イエロー…)


イエローはかわいい。

ほんわりした雰囲気に、でも芯の強い直向きな思いがあって、周りを癒す力を持っている。



(レッド…)


レッドはやさしい。

ちゃんと周りのことを見ていて、頼っていいのだと思わせるものを持っていて、人をひきつける。



二人ともあたたかい。

傍にいると、二人を見ているだけで、陽だまりにいるみたいにポカポカあたたかい。



(ちょっと、嫌になるわね…)


じれったい。

あんなに想い合っているのに、当人たちには互いに向ける好意がわからない。


所謂、両片思い。


もしかしたらわかっているかもしれないけれど、無意識に押し込んでしまっている。

大切で大事な友人の二人。



――うらやましいと思う。それが嫌になる。


人それぞれ、付き合い方に差があるわかっていても。




(レッドとイエローにはレッドとイエローだけの関係がある。羨んじゃダメ。アタシとアイツには、アタシとアイツだけの関係があるんだから)



付き合っているのに、甘い雰囲気とは無縁で。

恋人らしいことなんてこれっぽっちもなくて。


互いの気持ちには気付いていなくても通じ合っている二人の関係と、通じ合っているはずなのに相手を遠くに感じてしまうアタシたちの関係。


…違う。そう感じているのはきっとアタシだけ。

アイツは何も思ってないに決まっている。




くさくさしそうになる靄がかった塊を振り払ってもう一度レッドとイエローを見る。



レッドが右手を中途半端に持ち上げて、でもまた降ろしそうになってでもでもまた持ち上げようとして止まって、と、背から頭付近にかけての位置で右手を挙動不審にさせている。

肩に手を置きたいのか頭を撫でたいのか、はたまた背に手を添えたいのか。

いっそ一思いに抱き寄せてしまえばいいのに。このヘタレ。



イエローはまだ赤い顔で俯いていて、でもその視線はちらちらとレッドの左手に向けられている。

そっと震える手を伸ばそうとして、触れそうになると慌てて引っ込める。

また伸ばして、途中で指先を握り込んで元の位置に戻る。その繰り返し。


手を握りたいなら握っちゃえばいいのに。

それこそ片手と言わず両手で、包み込むように。

奥手なイエローにそれを簡単に出来るわけがないとは思うけれど。




(ああもうじれったい!)



黙って見ているのも限界がきて。

このブルーちゃんが直々に二人をくっつけてやるんだから!





……と意気込み立ちあがったところで。




「きゃっ!」


腕を、引かれた。

後ろに倒れそうなって、次にくる衝撃を予想し目を固く瞑る。が。

ぽすっ、と予想より早く、傾きも緩く体は動きを止める。浮くはずだった足は地についている。

体に回された腕に、抱き留められたのだと気が付いた。


――誰に、だなんて聞かなくても判る。



「グリーン!」

「…うるさい女だ」



至近距離で、声を潜めるようにため息と共におとされた、小さく掠れた低音。

どくん。

心臓が大きく波打って。

触れているグリーンに伝わってしまわないかとの懸念が浮かび、余計にどきどきする。


なんとか平静を装いながら顔を上げると、思ったより近くにグリーンの顔があってますます鼓動は高まるばかり。

顔が熱い。赤くなったりしていないわよね。

ときめきを胸の隅に押しやって、じとりと下から澄まし顔を睨み上げる。


「……なんで邪魔するのよ」

「余計な世話は焼くな。放っておけ」

「あんたには親友の恋路を応援してやろうって親切心がないの?」

「お前はお節介という言葉を知っているか」

「失礼ね!だってじれったいんだもの!!」



両想いのくせに進展の兆しを見せないあの二人が。


じれったくて、もどかしくて、……羨ましい。



なんて、絶対に言えないけれど。



 
 

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