メロン生地

□タネも仕掛けもあるテレポーション・トリップ
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「よっルビー、偶然だな」


目の前に降り立ったその人は、何事もなかったかのようにあっけらかんと笑う。


「こんにちは、レッドさん」


明らかに偶然ではなく故意だった。
だがこの人が素知らぬフリをするならばそれに合わせよう。

この人――カントー地方マサラタウンの、レッドさん。
かつてカントーポケモンリーグの頂点に立った人。

幼き頃サファイアに語った、僕が憧れた人。


「こんなところで何してるんだ?」

「…待ち合わせです」


ああ、何となく。
からくりが読めてしまった。

この人はわかりやすい。嘘のつけない人だ。

猛スピードで飛んでいたプテラに運ばれる中で、木の下で静止する僕をあっさり見つけられるものか。

躊躇うことなく空から飛び降りたのは、僕がここにいると知っていたから。

情報源は…


「ちょうどいいや。渡したいモノがあるんだ」


ごそり、と背負ったリュックから取り出したものは。


「……モンスターボール?」


何の変哲もない、モンスターボールが一つ。
手のひらを転がる。


「そ、中にポケモンが入ってる。出してみな?」


どういうつもりなのか、意図がわからない。
訝しみつつもしぶしぶ開閉ボタンを押した。

パシュンとポケモンが飛び出して、その姿が明確になる。


「ケーシィ…?」


見覚えがあると感じたのは、頭を過ぎる影があったから。

しかし把握するのが一寸遅かった。

ふよふよ浮いたケーシィの眼が赤く発光する。


「!?」


ケーシィの光はあっというまに僕を包み込んで、もがけど抜け出せない。捕らわれた。

光の隙間、レッドさんの口元がゆるく笑みを象っているのが見えて。


「ッレッドさん!!」


ぱくぱく、と口の開閉が繰り返される。

音の無い言葉。
伝わって、目を見開いた。

喉元まで出かかった文句は全て引っ込んでしまった。


「いってらっしゃい、ルビー」


シュルン。

音と共に消えた光の名残を、レッドは優しげに目を細めて見送った。





 
 

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