ながなが生地
□異世界
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太一の腕の中で眠る、扉から現れた少年。
「太一、こいつは一体…」
「……」
眉根を寄せ、思案している。
只者ではないはずだ。
あの扉から出てきたということは、少なからずあの声とも関係しているはずだから。
ずっと険しい顔で黙り込んでいた太一が動いた。
「手伝ってくれ、ヤマト」
その少年の腕をとって身体を片手で支えつつ肩にかける。背負おうとしているらしい。
「どうする気だ?」
手伝いながら問いかける。
「とりあえず、光子郎のところへ連れて行く。あいつなら何か知恵を貸してくれるはずだ」
「…そうだな」
光子郎なら、例えわからないことでも一生懸命に模索してくれるだろう。
知りたがりのあいつのことだからそれを苦にも感じないだろうし。
大切なものを扱うように丁寧に背負って。
あいつを見る太一の目が優しくて。
ちり、と胸を焦がす嫉妬を感じ、慌てて頭を振って気を紛らわせた。
*異世界*
ピンポーン。
とあるマンションの一室。
備え付けのインターホンを押すとしばらくして、中からぱたぱたと廊下をかける音が聞こえる。
扉から顔をのぞかせた光子郎は、訪問者の姿を確認して目を丸くした。
「お二人とも、こんな時間にどうしたんです?」
「ちょっと、な……光子郎、話があるんだ」
「……厄介事ですか?」
問い掛けに答えず、太一は苦笑する。
付き合いの長い光子郎は、それだけで事情を悟ったらしい。
「入れてくれると助かる」
「それは構いませんが、太一さんが背負っているその子は…?」
ちらり、と視線の流れる先には、太一に全身を預けてすやすやと安らかに眠る、扉から現れた少年。
「こいつの説明も含めて、全部話すからさ」
「……わかりました。どうぞお二人とも、中へ」
扉を大きく開けて促す光子郎に礼を言い、太一は少年を背負い直して遠慮なく戸を潜る。
全部話す、というのは。
光子郎だけでなく自分にも向けられた言葉である、と、今までの経験から悟った。
本当に、話してくれるのだろうか。
俺が知らないで太一の知る、全てを。
進むままに敷居にあがる太一の、背負った少年の向こうに見える髪を見つめながら、ヤマトは腑に落ちない思いを抱えて扉を閉めた。