ながなが生地
□黄昏の時
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扉は開かれた……
待っているから……
時が来るまで、ずっと………
*黄昏の時*
夕暮れ時。
人の少ない公園の中に、中学の制服を着た、濃い茶色の癖のある髪にそれと同じ色の瞳を持った少年と、金の髪に碧の瞳を持った少年がいた。
「なあヤマト、今日も親父さん遅いのか?」
濃い茶の瞳を持つ少年 太一が、碧の瞳を持つ少年 ヤマトに、ふと頭に浮かんだ疑問を問う。それにヤマトは首を縦に振り頷きながら、
「ああ。何か最近、仕事が忙しいらしい。ところで太一、今日家で晩飯食っていくか?」
いつものように?太一を夕食に誘う。
太一は週に一度はヤマトの家で食事を共にとり、泊まってゆくのだ。
だから答えもいつもと同じ、だと思ったのだが……
「おう、食ってく!って言いたいところなんだけど…悪い!今日は遠慮しとくよ」
申し訳なさそうに苦笑しながら太一は答えた。
予想外の返答にヤマトは少し目を丸くしたが、
「ヒカリに今日は絶対帰ってこい、って言われてるんだよ。それに今日中にやらなきゃならないものもあるし……」
そういう理由があるなら仕方ないか…と、あっさり納得した。
二人はしばらくの間他愛もない会話を続けていたが、さすがに暗くなってきたのでそれぞれ帰路につこうとしていた。
その時、ヤマトが周囲の異変に気が付いた。
「太一……」
「ん?どうした、ヤマト?」
「音が、ない‥‥」
「…え?」
ヤマトの言ったことが理解できず、太一は「どういう意味だ?」と聞き返した。
「さっきまで聞こえていた車の音や鳥の声が聞こえないんだ……」
その言葉で太一は目を伏せ 耳を澄ます。
すると、先程まで確かに聞こえていたはずの車の騒音やカラスなどの鳥の鳴く声が全く聞こえてこなかった。
「本当だ。オレにも聞こえない。一体何が‥‥!!」
まさか……
太一は何かに気が付いたようで、ぐるりと辺りを見渡した後 いつも肌身離さず持ち歩いているデジヴァイスで時刻を確認した。
そして些か眉間を歪め苦く息を吐き出した。
「やっぱりそうか…」
「何がやっぱりなんだ、太一?」
訳が解らずにいるヤマトに太一は真剣な表情を向ける。
「時が止まっているんだ…きっと、オレ達以外の時間が」
「何だって!?」
信じられないと言うように驚きに目を見開くヤマト。
そんなヤマトとは対照的に 太一はこれを見てみろ、と、手にあるデジヴァイスを差し出す。
その画面は午後六時六分六秒を示して止まっていた。
ヤマトもまた、自分のデジヴァイスを取り出し見てみると、やはりそれも同時刻を示して止まっているのだった。
あまりの出来事にヤマトは頭を抱え、「何が起こっているんだ…」と一人呟く。
同時に、太一はハッと顔を上げ、ポツリと何かを漏らした。
小さすぎて聞き取れなかった言葉に、ヤマトは太一の名を呼んでみる。
太一は真っ直ぐ先の空を見、今度は何とか拾えるくらいに しかしはっきりと呟いた。
「聞こえる…声が‥‥オレを呼んでいる………」