「ちょっと。どこに連れていくのさ」
無理矢理、応接室から連れ出されて。
彼は僕の腕を掴んだまま振り返らず、森の小道を歩き続ける。
「ねぇ、骸ってば」
「いい所ですよ、恭弥」
ふっと見せた笑顔に少し、ほんの少しときめきながら、彼を問い詰める。
「どこ行くのさっ」
「行けばわかりますってば。静かにしてて下さいよ」
ね?と笑いかけてくる彼は、夜闇に紛れて綺麗だった。
……………いや、そんな事より。
僕は本当に、どこに連れていかれるのだろう。
半時程前、彼が(窓から)応接室に踏み込んで来た。
「恭弥!!出掛けますよ!!」
唐突にそんな事言われても困るというもので。
断ろうとしたのに、有無を言わさず応接室から連れ出された。
それから森の道無き道を歩いてきたので、結構奥深くまできたかもしれない。
そろそろですかね、と骸が零す。
「楽しみにしててくださいね、恭弥」
「だから何を、」
と言いかけて。
ふと、気付いた。
僕と骸、二人きり。
夜の森の奥。人気がない。
まさか、骸は。
僕にあんな事やそんな事をする気なのか!?
その発想に顔を赤らめつつも、目の前の男を罵倒する。
「こっの、変態………!!咬み殺す!!」
「へ!?どうしたんですかいきなり!」
「外でそんな事しようとするなんて………!!秩序を脅かすつもりかい!?」
骸はきょとんとした顔をしている。
この期に及んでこの変態……!!!
「恭弥?僕が見せたかったのは、コレですよ」
僕の腕をくい、と引っ張って、エスコートするように前を歩く。
少し歩けば、そこは小さな広場のように開けていた。
否。
そこは、小川のほとりだった。
丸みを帯びた小石が敷き詰められていて、歩くたびに音が鳴る。
「これ、」
「驚くのはまだ早いですよ、恭弥。ほら…………」
ついっと彼が向けた指先は、川の表面を指差していた。
恐る恐る覗くと、そこは。
星の海。
天の川を映した、星の川。
「ミルキーウェイ、でしたか?天の川を映した、自然の芸術です」
「…………きれい」
ただ、そんな陳腐な言葉が漏れた。
それほど、美しかった。
「川の流れが比較的緩やかで、夜空の星を綺麗に映すんですよ」
恭弥に見せたくて、と笑う彼を見て、変な発想をしてしまった自分を叱咤する。
「恭弥、さっきの発言は期待していたと受け取っておきます」
「なっ、ばっばか!!」
「恭弥の変態」
どっちが、とか思いながらも彼を珍しく殴らなかった。
聞きたい事があったから。
「今日、七夕だよね」
「はい、そうですが」
「じゃあ、君は何を願うの?」
君の願いが、僕に関係してるといいな、と思った。
そうですね、と彼は一瞬迷って。
「恭弥を、一生愛せますように。それこそ、織り姫と彦星のように」
ですかね、とまた笑った。
「…………ばか」
「愛してます………途方もなく」
そっと、優しい腕に抱きしめられる。
この時が永遠に続けばいいと思った。
愛してる、とまた彼が囁いた。
「恭弥の、願いを教えてください」
僕の願い、そんなのとっくに決まってる。
「君をずっとずっと、傍らで、咬み殺し続ける事だよ」
苦笑して、笑う。
君になら、わかるでしょ?
ずっと、一緒って事。
隣り合わせ、七夕の恋人
(隣り合わせじゃないなんて、ありえないんだよ。わかってる?)
七夕ですねー^^
と言う事でフリー。
フリーなのでお持ち帰りおっけいです。
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管理人 五月七日 雫