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□雪降る町で
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「やっぱりここは寒いですね―。」

そう言って、目の前の彼女は肌寒そうに身体を震わせる。

地面や建造物は真っ白な雪に覆われ、彼女と私が吐く息でさえも白く色づいているように見えていた。

「大丈夫ですか?寒さに慣れていない貴女には辛いでしょう。」

「そうですね、やっぱり私は雪国生まれじゃないから、この寒さはちょっとキツいです。
…にしても、私と違ってずいぶんと平気そうに見えますね。」

「ええ、まぁそれは当然でしょう。
一応ここは私の故郷に当たるわけですから。」

「そうなんですよね、ここが故郷…なんですよね。」

何か思うところがあるのか、彼女は少し考え込んでいるような仕草を見せる。

何か物思いに耽っている様子の彼女と同様に、私自身も彼女と最初に出会った日の事を思い返していた。

目の前の彼女は、出会った時にはまだ本当に小さな少女だった。

あれから数年経ち、可愛いというよりは綺麗と称した方が適切な年齢に彼女はなったのだが、一緒に旅をしていた頃から感じていた愛嬌の良さと愛くるしい笑顔は、あの日から何一つ変わってはいない。

あの幼い少女が、今も私の隣にいるなんて、きっと昔の私は想像もしていなかっただろう。

相変わらず何処か寒そうにしているアニスの背中に腕を回し、彼女を一気に自分の元へと引き寄せる。

昔ほど人目を気にする必要もなくなった事は、年月を経た今ならではの利点と言えるかもしれない。

「あったかい…。」

心地良さそうに目を細めて、今度は彼女が私の背中に手を回してくる。

始終照れてばかりいた幼い少女の顔はそこにはなく、あるのは何処か心惹かれる女性としての顔だけだった。

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