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□彼女の事情、私の思い
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「アニス、実は前々から気になっていた事があるんですが。」
「なんですかぁ?」
何だかわからないとでも言う風に、目の前の少女は可愛らしい小首を傾げてみせる。
「いえ、どうして私だけ未だに名前を呼んでくれないのかと思いまして。」
「はうわっ!?な、なんでと聞かれましても〜… 」
「私、これでも少しは傷ついていたんですよ?
長い間旅を続けてきて、ルークの事も貴女は名前で呼ぶようになったのに、いつまでも私は大佐と呼ばれているのは少し寂しい気がしますねぇ。」
「えっと…大佐とは齢が離れてますし、…そ・・それに・・。」
「それに?」
「・・大佐を、名前で呼ぶなんて恥ずかしいじゃないですか・・・。」
小さな、小さな声で。
小さな彼女が呟いたその言葉は、彼女を可愛らしいと思わせるには十分なものだった。
「案外可愛いところがあるのですね、アニス。」
「ぶ―ぶ―、なんですかそれぇ。アニスちゃんは可愛いとこばっかりですよぉ!」
先程とは打って変わって、彼女は心外だとでも言わんばかりに、不服そうに頬を膨らませる。
…相変わらず自分の感情を隠すのが上手な少女だ、と何処か少しやりきれない思いを抱きながら。
私はそっと、ある言葉を紡ぐ。
「いつか、私の事も名前で呼んでくれると嬉しいんですけどね。」
さて、私がつぶやいたこの言葉に対するアニスの答えは一体どんなものなんでしょうか。
私は、わざと外していた視線をもう一度、ゆっくりと彼女の方にへと向けた。