中央編E

□中央編118 散り、咲う。後篇
1ページ/9ページ

散り、咲う。
後篇


 ガネットは、天上裏にある排気口から、司令官執務室での会話を盗み聞きしていた。アルドという大佐は、電話をしているようで、相手はカーン中将と言っている。
「司令官の席は、私が座っております。もう、ヤツは再起不能」
『例の計画書は渡ったか?』
「ええ。手元に」
『明日――いや、今日だな。大総統府との護衛会議に、それを伝えろ。いいな』
「承知いたしております」
 そこで、受話器を置いたらしく、アルドは、司令官執務デスクに、ぱさ、と紙の束を置いた。
「なぁに、これで、大総統の席も開く」
 ククク、と、アルドが笑った。

「アルド大佐」
 扉から、士官がアルドを呼びに来ると、何かを話しながら、司令官執務室を出て行った。しばらくしても、戻ってこなかったので、ガネットは、チャンスとばかりに、排気口から降り、アルドが投げ置いた紙の束を読み始める。
 エルリック少将だったら、すぐに覚えられるのに、と思いながらも、ガネットは必死でそれを読む。そこへ、そ、と扉が開いて、戻って来た、と思ったガネットはとっさにデスクの陰に身をひそめた。
だが、
「ガネット中尉」
 と、小さな声で呼ばれ、顔をあげると、ユンがこちらをむいて、唇に人差し指を置いて、「し」っといった。
「その計画書と、コレをすり替えます」
 そういうと、ユンが持ってきた紙の束とすり替え、扉の向こうがわに気配を感じたので、二人はすぐさま、ガネットが降りてきた排気口へと再び戻った。

 ちょうど、アルドが戻って来たらしい。
 それを確認して、二人はその場から、去っていった。


 潜むように、仮眠室に行ったユンとガネット。
「どうして、ユン少尉が!?危険です!」
「すみません。カーンという男を調べる為に、戻ってきました。何かご存知ではないですか」
「今、アルドがカーン中将と話をしていて、この、計画書を今日の大総統府との合同会議で伝えろと言われておりました」
「カーンは中将地位だったんですね…中央司令部にはいないから、大総統府管轄ということでしょうか」
 ユンが、すり替えた書類を見始めた。
「この計画書は普通ですが、配置する軍人によって、大総統は危険にさらされますね」
「エルリック少将が重点を置いていた、狙撃隊、通称“鷹の目隊”が、存在しません。つまり、上空が危険ということになります」
 ガネットの言葉に、ユンも頷く。
「明日の、会議――エルリック少将は動けませんから、どうしたらいいか…。大総統府とも連絡が取れない今、どうしたら…」
「エルリック大佐は、今、大総統府ですよね」
「ええ。自爆テロを手引きしたと言われておりますが、そのための事情聴取はまだ行われていません」
「大総統が止めているのかもしれませんね。…私が、やってみます」
 ガネットの言葉に、
「無理ですよ!ジンデル中尉だって、傷だらけでしたから!」
 ガネットは、にこっと笑った。
「この数日で、私はB号さんと仲よくなりました」
「…は?」
 B号とは、エルリック家で飼われている猫のことだろうか?
「猫は人になつかないといいますが…可能だと思うんです」
 ガネットの言っている意味は、わからないが、自信がありそうな瞳をしていたので、ユンは、
「私で協力できればいいのですが…アレルギーが」
「あ、少尉だったんですね。大佐が、私に『猫アレルギーあるか?』なんておっしゃってたので。――大丈夫です。私一人で。ユン少尉は、とりあえずこのことを、アンダーソン兄弟やエネルさんやエイジさんに伝えてください」
「わかりました。それと、少将の容体をお伝え下さい。少将は、発熱し、まだ眠ったままです。でも、安心な場所でエイジさんの治療を受けていますので、心配ないと」
 二人、同時に敬礼をかわし、それぞれに踵を返したのだった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ