中央編E

□中央編119 バリアー
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 エドワードが、市井見回りと言う名のサボリを決行していると、すれ違いざまに、ぐいっと肩を引っ張られ、思わずバランスが崩れ、倒れそうになった。
「うおっ!?」
 一緒に行動(時間内に帰還するか見はりを)していたアンダーソン弟が、思わずそれを支える。
 その、すれ違った男が、ぎゅっとエドワードの両手を握った。

「絵のモデルになってください…!お願いします!!」

 …そう懇願されて、エドワードは目を丸くした。
…同時に、隣でアンダーソン弟が「ぷっ」となぜか吹きだした――



「それでどうしたんですか?」
 帰還すると、ユンとアンダーソン兄も興味深々で尋ねる。
「ことわったに決ってんだろ!」
 と、機嫌悪そうなエドワードだ。
「まあ、当然ですね」
「見た目だけは、そうですよねー。絵には性格は移りませんし」
「何気にひでぇぞ!ハーク!!」
 アンダーソン兄は、にこり、と笑って追加書類をエドワードの前に置いた。
「げぇっ」
「今日は、コレだけでいいですから」
「って、何百枚あるんだよ!」
「千近いんじゃないでしょうかねぇ」
「おにー!!」


 やっとのことで書類を終えて、帰宅しようと中央司令部の門を出た。
 そこで、さっと現れた男に、マリアンが反応して、エドワードの前で男を抑えた。
「わっ!す、すみませんっ!あの、やっぱり絵のモデルをお願いしたくて!軍人さんだと思ったので、待ち伏せしておりました!!」
 と、昼間の男がそこにいた。
 上背は、アルフォンスほどあるが、アルフォンスよりも細い。髪は短めで、濃い目の茶色だ。
 なんせ、必死な顔で、懇願してくる。
「犬っぽいな、おまえ」
「は?」
 そこで、マリアンが、
「彼の肩章を見て下さい。わかりますか?階級は、この容姿でも、将軍です」
「ええええ!?」
「にゃは☆」
 目が飛び出るんじゃないかと思うくらい見開かれた男の目と正反対に、エドワードは子どもっぽく笑ってみた。

「すすすすすみません!ってっきり、十代の下士官だと思ってましたっ!」
「これでも、二十代半ばで〜す☆」
「ええっ!二十代で将軍ですか!?」
「少将だけどな」
「立派です…!」
 さらに目を輝かせた男に、エドワードは、
「おまえ、名前は?」
「リチャードです。絵描きをしてます。まだ、それほど食べられるわけではないのですが」
 照れたように笑った男に、エドワードもに、と笑った。

「いいよ」
「えっ」
「モデル、してやる。ただし、一日二時間まで。こうみえて、オレは多忙なんで、時間は夜に限る」
「あ、ありがとうございますっ!!」
 深々と男が頭をさげた。



 マリア・ジンデル中尉の一日の報告は、エドワードを自宅に送り届けた時、アルフォンスがいれば、それで終了なのだが、いない場合は、大総統府に電話をかけることになっている。それが、最近遅い。兄の帰りが遅いからなのだろうが…。
 帰宅前の定時報告で、マリアンから連絡をもらったアルフォンスは、さっそく尋ねてみた。
「ジンデル中尉、最近、兄が何か新しい事してませんか?」
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