中央編E

□中央編126 金ネコ肉キュウ便
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 カウンターで、静かに、ブランデーを傾ける男に、バーテンダーは、ちらりと視線を向けた。手は、皿を拭いている。
 男は、いつもよりめかし込んでいるようだ。
「奥さんはどうしたんです」
 バーテンダーの言葉に、
「嫁をもらった覚えはねぇ!ヨメに出す覚悟をしただけだ…!」
「ああ、今日だったんですか。食事するって話」
「なんでおまえまで知ってんだ!」
「猫の情報屋がいるものですから」
 そう笑ったバーテンダーに、男――エネルは、くううっと泣きながらブランデーを煽った。
「まだ先の話でしょうが」
「先だよ、ああ、ずっと先だ!わかるか!?おまえに!ずっと可愛がっていた妹が、自分に向ける目より、ずっとやさしい目で他人(よそのおとこ)を見るのを見たオレの気持ちが!見るからに、惚れてんだな、って思ってしまった、オレの気持ちがっ…!」
「まったくわかりません」
「だろうよ!!おかわり!」
 ったく、何杯目だ。とバーテンダー、マーカーは、溜息をつきながらおなじ酒を差し出す。
 そこへ、
「うーっす、マーカー。そろそろエネル来てんじゃね?」
 と、顔を出したエドワードに、「なんでおまえが来てんだ!」と泣きながらエネルが叫んだ。
「なんだよ、今日だったんだろ?どうだった?」
「何がどうだったんだ!妹と飯食っただけだろうがっ!」
「妹と彼氏交えた食事会なんて、おまえ、お嫁に下さいって言ってるよーなモンだろうが」
「ちっげーよ!まだ先の話だ!お付き合いを認めて下さいってヤツだ!!」
「はは〜ま、婚約みてーなもんか」
「ちがうしっ!」
「そんなことより、エイジは行かなかったのか?」
「そんなこと呼ばわりすんなっ!エイジも行ったさ。ソルと先帰った」
「そっか。エネル、これ」
「?」
 エドワードが、カウンターのテーブルにすっと一通の手紙を差し出した。裏を返すと、大総統印が、蝋で押されている。
「!?」
「召喚状」
「へっ!?」
「内容は知らん。オレも預かっただけだし」
「…なんだよ、何か事件の参考人とかか?」
「いや、オレもしらねぇ。大総統府からだしな」
 エドワードから渡されたそれに、エネルは目を瞬かせ、
「オレ、何か悪いことしたっけ…?」
 と、青くなって悩んでしまった。
「つーか、こんなトキに持ってくんなぁああああ!」
「ごしゅーしょーさま。あいにく、『金ネコ肉キュウ便』は、早いの」
 そう可愛く笑ったエドワードは、そのカワイイ笑みのまま「マーカー、ライムの入ったカクテル作って。エネルのおごりな」と、注文していたのだった。


「えっ、あの食事会の直後に渡したの?」
 ベッドに座って、髪をタオルで拭いていた兄に、アルフォンスは、目をぱちくりさせた。アルフォンスも今、シャワーを浴びて出てきたところだった。
「うん。内容しらねぇし」
「そう…うん、そうだよね。うん…」
「なんだよ、ヤばかったのか?」
「いや、うん。ヤバくはないよ」
「なんだよ、気になるな」
「…まあ、優秀な人間はたくさんいるけど、信頼という面でいろいろ悩んでいるんだよ、大総統殿も」
「ふうん。大総統の憂いを解消する秘書官も大変だな」
「僕は、表面だけだよ。兄さんの憂いを解消するだけに、生きてます☆」
「なんだ、それ」
 はは、と笑ったエドワードの唇に、そっとアルフォンスが唇を重ねた。
「別に憂いじゃねぇし」
 そう尖った唇に、再びアルフォンスの軽い口づけ。
「ボクの憂いも晴らしてよ」
「股間をくっつけるな」
「だって、これは、兄さんじゃないと解消できないから」
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