中央編E
□中央編 奪いたいなら奪ってみろよ
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奪いたいなら、奪ってみろよ。ーー奪えるもんなら。
夜に愛された蝶なのか、
灯りに集う蛾なのか。
どちらにしても、食いものにされそうな、恐怖と、吸い寄せられる甘い蜜を同時に感じた。
ダメだ、痛い目を見る!そう思っても、逃れられない罠。
「オレのを、奪いたいなら、奪ってみろよ――奪えるモンなら」
そう言われた相手は、尻尾を巻いて逃げていっただろう。だけど、僕の視線はすでに、夜の蝶に向けられていて、それを目視する余裕はない。
「おまえ、ああいう輩にもモテるんだな。女だけかと思った」
僕は、ふ、と笑って。
「軍人だからねぇ」
今回、モテてしまった相手は、屈強な筋肉を持つ男。そんな男と、たぶん、戦ったとしても、勝っただろう兄は、言葉と視線だけで、男を追い払った。
「どうする?僕が、ああいう男に押し倒されてたら」
「心配だなぁ。おまえ、オレにも押したおされてるし」
に、と妖艶とも思える笑みを浮かべ、兄は、僕を押し倒し、上に圧し掛かってくる。
「兄さんには、敵わないけど、あの人には、勝てるよ」
腕力じゃない。
自分が、兄に吸い寄せられてしまう弱い部分がある。
――ああ。僕が、蛾なのか。兄というヒカリに集う、蛾。
兄はただ、美しい麟粉を見せて、時より発香麟で僕を誘う。
「じゃあ、オレが今日は食ってやる」
そんな言葉でも、僕のオスを刺激したからには、覚悟してもらおう。
終
ま、喰っちゃいますけどね(にこり)