中央編E

□中央編128 なんだかんだで…
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なんだかんだで…

「ただいま」
 今日という一日が、これほど長く感じたのは、久しぶりだ。そして、彼のくたびれたように着こなすその軍服の似合う姿も、なんとも言えず、胸の奥がきゅん、となる。
「お、かえりなさい…」
「ん?なんだよ、その顔。ソルは」
「寝てます。どうでしたか、復帰一日目は」
「どーもこーもねェよ。表向き、オレの居場所は、大総統府護衛部隊なんで、銃の訓練もあるんだけどよー…」
「やっぱ、前のように、撃てませんか」
 眉をひそめて、心配そうに見ているエイジの頭を、ぐりぐりと撫でて、
「ちげーよ。その反対」
「え?」
「そりゃ、腕は落ちてるさ。だけど、そんなオレよりも、下手な若造が多いってこと!思わず、曹長はバカでございますか!なんて、わけのわからねー敬語つかっちまったぜ」
「あ、伍長なんですね、階級」
「ったりめーだ。オレは、ペーペーだ」
「なのに、エルリック大佐に、楽に話してたんじゃないですか?」
「いまさら、敬語もねーだろーが!様子見にきたアルに「よーアル」なんて話しかけたら、その場が騒然となっちまって、アルは笑いながら、「あ、友人でして」なんていうし」
「でも、ジョリーがいたころから、人事異動されてるんですか?」
「知ってる人間もチラホラいたけど、オレがいる部署には、いないから、伍長が大佐にタメ口だぜ!って真っ青」
「まあ、前の階級もらっても、少佐ですしね。エルリック大佐の足元にどうにかいる状態でしたしね」
「ま、佐官まで上がったのに、一番下だからなーやりにくいぜェ〜?もちろん、オレの上官もやりにくいとおもうけど。年齢一緒くらいだし」
「はは。軍は年齢ではなく、階級ですからねェ」
 そう笑った、エイジに、エネルも、ふっと笑みを浮かべた。
「おまえのほうが、緊張してただろ」
 そういわれて、エイジは頬を赤らめた。
「い…いけませんか!?」
「だはは。いけなくはねェけど」
「なんか、新鮮です。昔――東方に居たころは、言わなくても、いつも一緒に仕事してましたから、わかってましたけど、コッチにきて、そして、軍を辞めてから、そういう話を貴方から聞かされるなんて」
「あのころがあったから、今があるんだな」
「ええ。あの頃の僕が知ったら、きっとビックリするだろうな」
「それに、ソルなんて名前の女の子までいてな」
「ええ!僕は、昔から、年をとったら、田舎で医者をしながら、孤児を育てたいなんていう夢をもっていましたが、田舎ではないにしろ、夢がかなったような気がします。それに、まさか、自分と共に居てくれる人までいるなんて、思わなかったから」
 エネルは、ぐりぐりと強くエイジの頭を撫でる。
 東方にいたころ、家に帰るのが、好きではない話を聞いたことがある。帰ったら一人になるから、司令部にいたほうが、ほっとすることもある。疲れているから、帰りたいと思うけど、でも、一人でぼんやりするのが嫌で、勉強したり、料理したりして、時間をつぶす。料理して、作りすぎたといっては、貰ってくれる人におすそわけするために、家へ行ったりしたこと。そのころは、お互い、淡い恋心を別の人間に向けていたけれど。
「夕飯、食べますよね」
「おう。先に、シャワー浴びてくる」
「ええ。準備しておきます」
 シャワーを浴びてくるといったエネルを見送り、エイジは、食事の準備をする。料理はできているので、温めるだけだ。
 そんな準備をしながら、エイジはほっと息を吐いた。
「…よかった…」
 緊張していたというか、なんだか、いつも通りの彼だったので、安堵する。一日で変わるわけはないのだが…そう、自分が一番よく知ってる姿だったような気がする。
 最近の彼は、もちろん、人がいいのは変わらないが、禁煙しているし(完全ではないが)、服装もシャツにボトムといったラフな恰好で、笑ってはいるが、何か目が違っていたように思う。ときどき、暗い目をしていた。呼べば、ふ、と笑ってはくれていたけど。
 なんだか、自分の知らない『ジョリー・エネル』だったような気もする。あの頃より、ずっとずっと近くにいるのに。
「…ン、リーン!おい、煮立ってるぞ、鍋!」
「わっ」
 慌てて、火を消すと、エイジは苦笑した。
「何、ぼーっとしてんだ」
 ボトムだけはいて、上半身は裸のまま、タオルを肩にかけて出てきたエネル。
 その体つきに、はっとした。
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