中央編E

□中央編131 野営訓練
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「ただいま」
 アルフォンスが帰宅したので、エドワードが、「おかえりー」と声をかける。すでに、エドワードはシャワーを浴び終わっていて、ソファで本を読んでいたところだ。
「明日は晴れそうか?」
「星は出ていたよ」
「そっか」
「明日、何かあるの?」
「野営訓練で、一週間、テント暮らし」
「ええええええ!!」
 アルフォンスのさけびに、「耳がいてェわ!」と叫んだエドワードだ。
「ちょ、な、えっ、ま、」
「何いってんだよ、おまえは…」
「野営訓練で、テント暮らしって!そ、そんな危ないことするの!?」
「おまえなぁ…軍人だから当然だろうが。オレはしらねェけど、士官学校とかでやってたんだろ」
「やってたよ!四人一つのテントで暮らすんだよ!?」
「そうだな」
「司令官はもちろん、一人で一つのテントだよね!?」
「んーなわけあるか。アンダーソン兄弟とユンは一緒だ。マリアンは、幽霊状態で、フラフラしてるし」
「き、危険―!!」
「なんでだよ」
「だって、だって、だってぇえええええ!」
「あのなぁ、アル。オレは、司令官だからといって、訓練とかやりたくねーとか言いたくないの。わかるか?」
「…そりゃ、兄さんには、そういう経験がものすごく不足していることは、わかってるけど」
「だったら、信頼しろ?」
「兄さんのことは、信頼してるよ!でも、襲われたら、元も子もないでしょっ!?軍人なんて、常に欲のこと考えてるような男の巣窟だよ!?」
 そう詰め寄って来たアルフォンスの額を、コツン、と叩いた。
「おまえ含め、な」
「ボクは、兄さんのことしか考えてないもん…。なのに、一週間、会えないなんてっ」
「今まで、離れてることなんて、けっこうあったじゃん。東方と中央の遠距離とか」
「そうだけどっ。アンダーソン兄弟だって、兄さんのこと嫌いじゃないしっ…」
「そりゃそうだろ。嫌われてねェもん」
「なんだか、信頼してるし」
「あたりまえ」
「う…」
 上目で、泣きそうな顔で睨んできたアルフォンスに、エドワードは、はは、と笑って。その頬を両手で包み込む。
「だったら、おまえだけのしるし、つけておけば。一週間、消えないように…」
「いいの?そんなに、色っぽく誘っちゃって。明日、立てないかも」
「そんときゃ、ユンがおんぶしてくれるだろ」
「うう…それもなんかビミョーなんだけど」
「だいじょうぶ。ユンには、手はださねェし」
「それは、アンダーソン兄弟に出してるってことじゃないの!?」
「うんにゃ。アルにだけ、出してるつもりだけど?」
 に、と口角を釣り上げたエドワードの視線の、欲を絡んだイロに吸いこまれる。
 そして、自然に、唇を重ねていた。

 唇を重ねたところが、離れた瞬間、エドワードの体がふわり、と浮かぶ。
「こら、どこへ連れてくつもりだ」
「ベッドの他、行くところなんてないでしょ」
 それもそうかも。なんて思いながら、弟にすべてを委ねていった。



 中央のはずれにある、演習場は、森や草むらのある広大な場所だ。ときどき、東方、西方が合同で訓練することもあるが、「中央軍は、なまってきている!」と最高司令官ショウ=テイラー大将のお怒りにより、中央軍だけの訓練を行うことになった。日々の体力づくりは十分しているのだが、反論しても面倒だと思ったエドワードは、「りょうかい」と、敬礼してそれを承諾。一週間、中央司令部を空けることとなった。

「えーオレ、見てるだけ?」
「見てるだけではなく、指揮ですから」
 アンダーソン兄の言葉に、アンダーソン弟が、
「ってか、少将は穴掘りできるんですか」
「おまえ、バカにしてね?両手叩いたら、穴はあくぜ?」
「なんだか、『パンがないのなら、お菓子を食べたら』といった貴族のようなカンジですね…」
 エドワードとアンダーソン弟の会話に、ユンは苦笑する。
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