未来軍部11

□キスひとつで。
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キスひとつで。

『おまえも、世間では年頃だ。それに、階級も申し分ないだろう。だから、こういった話も、出てくるのは仕方あるまい』
 ある日突然、送られてきた写真。
差出人が次期大総統だったため、電話をしたらそういわれ、エドワードは怒りよりも、諦めのほうが強かった。
「だからって、なんでお見合い…」
『憲兵司令部幹部の男の娘だ。私を支持してくれている。娘さんもきれいな人だったと記憶する。私が断る理由はないので、そっちで断ってくれていいし――まあ、気に入れば結婚でもすればいいだろう』
 エドワードは、電話の相手には見えないとわかっていたが、眉間に皺を寄せ、そのまま答える気もなく、がしゃん、と受話器を置いた。
「無能め!」
 エドワードが改めて、その写真を見た。
 確かに、キレイな人ではあるし、優しそうな笑みを浮かべている。

 エドワードは、黙ってずっと立っている副官をちらり、と見た。
「どう思う」
 とりあえず聞いてみた。
 アルフォンスとしては、受けなくて兄の立場が悪くなるのは避けたい。だが、それは自分の表向きの感情だ。
 本当は、会って欲しくないに決まっている。
 たとえ、自分たちに、誰にも譲れない絆があるとしても。

「…僕に聞くのはずるいと思うよ」
「…ごめん」
 アルフォンスの言葉が正しいと思ったので、エドワードは素直に謝る。だが、弟は溜息と共に、
「お見合いをお受けしたほうが、准将としての立場はいいのかもしれませんね」
 そう、他人行儀な言葉で、アルフォンスは突き放した。
「…」
 エドワードとしては、自分の立場なんぞ、まったく気にしていない。落ち着いているこの現状に、テロのように押し付けてきた次期無能大総統を、心の底より、恨めしく思った。



 なんで、僕まで…
 アルフォンスは、なぜか兄のお見合いに同席することになってしまった。エドワードには、親はいないと言っていいし、家族という立場である以上、仕方ないのかもしれないが、なぜ弟がこの場所に来なければならないのか。
 アルフォンスは、溜息すら押し殺して、笑顔を繕っていた。
 目の前には、憲兵司令部のお偉いさん。そして隣には、おしとやかに微笑む女性が座っていた。
「娘のカレンです」
 そう紹介されると、栗色の髪の女性はにっこり、と優しい笑顔で
「カレンです。よろしくお願いします、閣下」
 アルフォンスは、その微笑にどきり、とした。いや、女性に対してのときめきではなく、痛みを伴っている。そのため、ちらり、と兄を横目で見た。
 エドワードが、目を見開いて、微かに頬を染めている。
 それを見て、アルフォンスは、きゅ、と唇を引き締めた。
――母に似ているんだ。よく相手を知らないのに、優しそう、と思ったのは母に似ているから、条件反射のように、そう感じてしまったからかもしれない。
母もああして、目を細めて、ふわりと優しく微笑んでいた。

「閣下はよしてください。エドでいいです。エドワード・エルリック。そして、こっちが弟のアルフォンスです。オレには、他に家族がいないので」
「そうでしたか。お二人で、軍に在籍していると父から聞いております。ご兄弟で、とても優秀だと」
「弟は国家錬金術師の資格と医師の資格を持っております。自慢の弟です」
 何をいっているんだ、兄さん。僕の自慢じゃなく、貴方の自慢を僕がしなければいけないのに。
「弟思いの方なんですね」
「え、あ、いや…。どちらかというと、弟に甘えてばかりですかね」
 くすくすと女性が笑ったので、エドワードも照れたように、頬を赤らめた。

――やばい。吐きそうだ…。胃がきりきりと痛みだした。最近は落ち着いていたのに、またもこの痛みに襲われるのか。

「エドワードさんのご趣味は?やっぱり錬金術ですか?」
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