未来軍部11

□音のない唄
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音のない唄

「また東方か…小賢しい真似をしやがる」
 男は、さらりと黒い髪をかきあげ、自分の手元にある数枚の書類に目を通した。
「…いかがなさいますか?アクトン大尉の報告では、真面目でいい司令官だと」
 くく、と男が笑ったので、部下は、ぴし、と背筋を伸ばした。同時に、ぎらり、と一筋の光が、自分の首筋まで届き、びくり、と体を振るわせ、冷たい汗を感じた。
「次期大総統が、これを認めている」
 その一筋の光は、自分の上官が使う細い剣、サーベルだ。そこに、書類が突き刺さっている。その名は、『エドワード・エルリック』。
「私には、わからぬ。この男が、次期大総統が認めるほどの男なのか――」
 す、と剣を動かすと、それは僅かにしなりその書類を木端微塵にしてしまった。
 下官は、声も出せずにそれを見ていると、男は、腰まで伸びた黒髪を一つに束ねた。
「東方には、私が行きますよ」
 そういった途端、シュ、と、どこからかナイフが飛び、東方からの書類の一枚に突き刺さった。
「ミドルトン少将…」
「わざわざエマリー中将の手を煩わせるまでもない」
 やってきた男がずかずかと、エマリーの執務室へ入り込み、彼の顎を捉えた。
「噂では、貴方ほどのキレイな顔をしていると聞きました」
 その手をぱし、と叩きつけて、
「また悪い癖を出すつもりか」
「味見ですよ。錬金術師は、好物でね。ああ、好みじゃなかったら、そこの君にあげますよ」
 くすくすと目を細めて笑いながら、ミドルトンは踵を返した。そういわれた、下官はミドルトンを敬礼して見送る。
「フン」
 男は、執務デスクの椅子に、深く座りなおした。
「少将は、どうされますか」
「ったく…中央司令部司令官の椅子が空いたと思ったら、やっかいなヤツが戻ってきたな。私も、いつまでも公安委員にいるつもりはないぞ」
 エマリーは、黒髪を再びかきあげた。


「かったりー…」
 エドワードが、ぐるぐると首を回して、大きく溜息をつく。
「相手は少将。気を引き締めてね」
 エドワードと、アルフォンスが立って待っている相手は、中央からくるミドルトン少将だった。昼食の場を設けることとなり、待ち合わせのレストランで待っていること、五分。黒塗りの車が、玄関に横付けされた。
 二人が、敬礼すると降りてきたのは、元々笑ったつくりのような目の細い男だった。髪は亜麻色で、短い。
「ようこそ、ミドルトン少将」
「これはこれは、君たちがあの有名な鋼の錬金術師兄弟――の兄、」
 その視線はアルフォンスだったので、エドワードは僅かに眉間に皺を寄せた。
「オレが、兄、エドワード・エルリック准将です。少将」
「これは失礼。兄でも弟でもどちらでもいいんですがね。かわいければ」
 ふふ、と笑ったミドルトンは、そっとエドワードの肩に手を置いた。そして肩を抱くようにして、レストランの中へと促した。
 その様子を、怒りを一瞬にして充満させたアルフォンスが、見つめている。もちろん、顔は笑顔だ。
 レストランの出入り口を、エイジとエネルに警護を頼み、会食の部屋は、マーカーとベレッタ、そしてガネットが立つことになった。ベレッタとガネットは、部屋の外側、部屋の内側にマーカーを配置し、会食が始まった。

 始まった途端に、感じた自分に投げかけることのない質問と、視線。これは、まるで最初から、兄を狙っているかのような…。
 アルフォンスはそう感じた。
 話す内容はともかく、じっと甘い視線をエドワードに向けている。
「ところで、今回は、どういった視察で?」
「君に会いに来ただけだよ」
 ぞわぁ〜とエドワードの足の先から頭の天辺(アンテナ)まで鳥肌が立ち、上手く笑えなかったが、そんな様子もにこにこして見つめているミドルドンだ。
「君」
 急にアルフォンスに向けられた視線。
「はい」
「下がりたまえ。そこの部下と」
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