未来軍部11

□幸せのカミ
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「わ!准将!すみません!」
「おう?」
女性にそう言われて、振り向くと、自分の髪の毛がピーンと引っ張られた。
「いてて!」
「待って下さい!私のバッグの飾りに、准将の髪が引っ掛かってしまって」
エドワードは司令部からの帰り道だったため、軍服をきているが、まさか道ですれ違った女性が士官とは気がつかなかった。相手は、フリルのついたワンピースを着ている。
「あれ?取れない…」
「いいよ、切っちゃって」
「ダメですよ!私の家、近いんで、来て下さい!」
「え…うん…」
あれよあれよと、鞄に髪を引っ張られながらも、女性士官のアパートにつれられたのだった。


「に、い、さ、ん」
「た…だいま…」
 翌朝、エドワードが、そーっと玄関を開いたにも関わらず、弟が仁王立ちで立っていた。思わず、ただいま、と言ってしまったが、アルフォンスはそんな言葉を無視して、
「夕べどこに泊まったわけ」
 と、酷くブラックなオーラで言い放った。
「えっと、その…起きたら、知らないお宅でした…」
「はあっ!?昨夜、午後五時に帰宅したよね!?そのあと、僕も帰ったのに、会わなかったし、誰かと呑んでたの!?」
「の、呑んでない!いや、その、説明すると長くなるからさっ!とりあえず出勤しようぜ!」
 そういわれ、不服ながらも時間がないので、司令部に向うことに渋々頷いたアルフォンスだった。


 司令部の受付に「おはよ」と声をかけて、二人が通り過ぎるとすぐに、女性仕官と目があったエドワードは、「あ」と思わず声を出してしまう。
「あ、准将。昨夜は…その、すみませんでした」
 女性仕官が頬を真っ赤にして、頭を下げたので、エドワードは、
「あ、ああ。気にしなくていいって。こっちこそ、悪かったな」
 そうはにかんだ表情に、アルフォンスの心に黒い靄が表れた。
 一瞬にして、その女性仕官が誰だったか、と脳内に東方司令部で登録されている軍人の名簿を捲りだす。
 …マクレガー隊ビアンカ・ジンデル伍長。年齢二十一歳。可もなく非もない、内勤務め。栗色の髪、目が大きくて色白。そして、何より、兄さんより身長が低い…!
そこが一番のポイントだ。
 ぺこり、と頭を下げて、笑顔で去っていた下仕官に、エドワードはすっと手をあげて、別れを告げた。

 そのまま二人は無言のまま、階段を上がり司令官執務室の扉を開いた。
「ってか、アル!さっきから鬱陶しい!」
「何もしてませんが」
「さっきから、ずううううっと睨んでるじゃねーか!」
 エドワードの後ろで、じっと彼の背中を見つめていたアルフォンスの視線を、どうやら感じていたらしい。
 しかも、フツウの視線ではなく、黒く、じっとりとしたオーラも含まれている。
「じゃあ、誰なの、あの女性…」
「ジンデルさん…伍長、だったっけ?」
「それは知ってるよ。つまり、昨夜彼女と一緒だった…ってこと?」
 さらに真っ黒なオーラが飛び出してきて、エドワードは後ずさりをしてしまった。だが、べつに悪いことをしているわけではない。ぐぐっと身体を前にして、
「否定はしない」
「ドコで知り合ったの!?兄さんが、僕というものがありながら、女性と寝るなんて!しかも、兄さん女性抱けるの!?」
 そう叫んだ瞬間、大部屋のほうからマーカーが入室してきて、彼が目をぱちくりさせている。
「体格的にどうでしょうね」
「おまえが答えるな、マーカー!っつうか、誰が寝たっていったー!?彼女の家に泊まったのは、認めるが、なんでそういう話になるんだ!?おまえの頭にカビが生えてんじゃねーの!?」
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