未来軍部11

□アゾート
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アゾート

『ロイ〜?わたしィ〜貴方のエディだけどぉ〜最近、おみせ来てくんないじゃない〜?どうしたのよお〜?ボトルキープしてくんないと、わたし、泣いちゃうんだからぁ〜』
 ワザと科を作ったような声。こんな内容のハナシを、わざわざ中央司令部の大将執務室直通でしてくる人間なんて、自分には一人しか思いつかない。
「…エドワード・エルリックだな」
『…アレ?誰、あんた…』
電話の向こうの男は、悪びれもせずそう答えた。受け取った側が、自分よりも階級が上だというのに。口の利き方というものすら知らぬ小僧め!
「エマリー中将だ」
『あれ?回線間違えた?』
「貴様が呼び捨てにする、マスタング大将は、北方に視察中だ。その間、留守を任されただけだ!」
『あ、マジ?しっつれ〜しました〜』
「まて!ちゃんとした用件を言え!」
『大丈夫で〜す。じゃあ、失礼します』
 相手が受話器を置いてしまい、エマリーもガシャン、とその受話器を投げ置いた。
「フン」
 長い黒髪をかきあげて、椅子の背もたれに体重を預け、足を組む。
「いつか、引きずり降ろしてやるぞ、あの小童め」
 突如、ドタドタと仕官がその部屋に入り、敬礼をする。
「どうした、騒がしい」
「失礼します!テロです!囚人収容所が爆破されました!」
「犯行声明は!大将不在を狙ったのか!?」
「おそらく。犯行声明は、こちらに!」
 仕官が見せた一枚の手紙。
『我々の仲間をただちに釈放せよ。――イリアステル』
「イリアステル…確か、昔…」
「はい、10年度ほど前に、中央軍が首謀者を逃した事件かと」
「当時指揮をとった人間を上げておけ。囚人収容所に急行する」
「はっ」
 エマリーは、髪を翻して、腰にサーベルを携える。そして、つかつかと歩き出した。


「准将」
 アルフォンスが東方司令部司令官執務室に入り、伝えた内容に、エドワードの眠かった脳もフル活動を始めた。
「テロ!?」
「はい、セントラル囚人収容所を爆破されたそうです。マスタング大将の不在を狙われたらしいです。現在は中央司令官の席も空いていたため、留守をまかされていたエマリー中将の手腕により、回復されておりますが、問題は犯人です」
「まだ捕まってないのか?」
「犯行声明は、『我々の仲間をただちに釈放せよ。――イリアステル』という簡単なものだったのですが、そのイリアステルというものが…」
「10年まえ、私が指揮のもと、首謀者を取り逃がしたテロ事件だわ」
 ふいに声が聞こえて、二人が顔を上げた。ソニックが扉から入室してくるところだった。
「ソニック准将」
 …そして、その後ろには長い黒髪の男が入ってきた。
「エマリー中将」
 アルフォンスが、敬礼をするが、エドワードは目を細めた。
「本日、セシル・ソニック准将を更迭。後、軍法会議所に送致する」
 エマリーが伝えた内容に、エドワードは立ち上がって、睨み返した。
「意味がわからねぇ!ソニック准将は何もしてねぇだろ!?大体、中央司令部が浮ついてるからこういうことが起きるんだろう!?」
「テロは予測不可能だ。10年前、彼女が取り押さえなかったら、今回のテロは起こらなかった」
「そうとは言い切れないだろ!」
「だったら、取り押さえていたら、今回のは起きたのか?」
「本当に、その取り逃がした首謀者が、今回テロを起こしたのか!?」
「それは確実だ。東方へ逃げたという情報が入った。本来、公安委員会が口出すことではないが、私が留守番中に起きたテロだ。私が、総指揮を執る。東方司令官執務室を借り受ける」
「この部屋なんざ、貸してやるが、ソニック准将のことに関しては、納得いかねぇ!」
「貴様が納得しようがしまいが、これは決定だ。ロイ・マスタング大将も承知のうえ。まあ、本人の意向で退役するなら、それもいいだろう」
 ソニックが唇を噛み締めたのを見て、エドワードは、キリっと強い視線でエマリーを見上げた。
「退役なんかさせねぇ!犯人、オレが捕まえてやろうじゃねぇの!」
「いいのよ、エルリック准将」
「そういうわけにはいかねぇ。気にいらねぇから、納得のできないままにはしていられない」
 エドワードは、にかっとソニックに笑った。
「ソニック准将は、気にせず、高みの見物しててくれよな」
 エマリーは、ふん、と鼻で笑い、
「いいだろう。ただし、貴様が使える人数は10人未満とする」
「それで、東方全部を捜索しろと!?」
 アルフォンスが思わず叫ぶが、エドワードがそれを抑えた。
「十分だ」
 にやり、と笑ってエドワードが、踵を返す。
「ソニック准将。しばらく、まっててくれよ?」
 その言葉に、ソニックは、ふ、と口角をつりあげただけだった。
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