未来軍部11

□ヘドニズム
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マリィ・ガネットは、二週間と四日、夫に会っていなかった。電話は、二回ほどあったので、生きていることは分かっているのだが、出張でもないのに、二週間会っていないとなると、心配になる。それに、着替えも、もうないはず。
そう思い、息子のノエルと娘のイヴをつれて、東方司令部に向かった。
受付に、事情を話すと、すんなりと入れてくれた。ふつう、司令官直属部下の待機室となれば、連絡を取るはずなのに、司令部のセキュリティは大丈夫なのか、と思ったが、まあその辺りは臨機応変なのだろう。大体、子供二人連れた、テロリストなんていないだろうし。

マリィは、司令官直属部下待機室のドアをノックした。
返事はない。
もう一度、ノック。
「…ぁい…」
 小さく声が聞こえたので、マリィはその扉を開いた。
「あら」
 その瞬間、書類なのか紙の類が散乱し、さらにデスクに数人がつっぷし、床には金の長い髪の持ち主が、ころがっている。
 屍累々…そんな状況だ。

「えっと…」
 髪色で、夫を判断すると、夫のアンディ・ガネットは、デスクにどうにか顔をあげて書類を書いていた。
「ぱぱ」
 ふいに聞こえた、幼い子供の声に、屍になっていた全員が、ふと顔を上げた。もちろん、『パパ』と呼ばれる立場なのは、ガネット一人。
「ノエル!マリィに、イヴも…」
 疲れ切った体に、ふとエネルギーを与えられたような気がして、ガネットは立ちあがった。
「着替えと、差し入れでも、と思ったんだけど…。甘いものより、食事のほうがよかったかしら」
 マリィが苦笑をこぼすと、
 のっそり、と床に転がっていたエドワードが、
「わりィ〜な、マリィさん。ガネット帰ってないんだろ〜?ガネット〜おまえ、今から帰れ」
「え、でも…まだそのような状況じゃ…」
「だいじょーぶ。オレもうちょっとやるし。いいから帰れ〜」
 アルフォンスもデスクに座りながら
「すみません、マリィさん。二週間、われわれが出張でいなかったもので、ガネット少尉には、二週間以上もこっちに泊まっていただいてて…」
 ソニックも、
「私も、一度帰ってもいいかしら」
 と青ざめた顔で立ちあがった。
 そこで、手を挙げたのは、
「わたしも〜結婚前の若い女がこんな顔で出られません〜休憩を〜」
 エドワードは、
「おう、三人とも帰っていいぞ〜。明日も休んでいいし、明後日は通常できてくれ〜オヤスミ〜」
 どうやら、不眠不休状態で、二週間以上いるらしい。そう感じたマリィは、苦笑をこぼした。

「すみません、准将もお疲れなのに」
「しょーがねーよ。オレ、准将だもんよ…」
 といいつつも、半分目が落ちそうだ。
 すると、ノエルが、てて、とエドワードのそばにより、
「じゅんしょーさん。あげる」
 にこ、と頬笑んで手にもっていた、キャンディの包み紙を渡した。
「そのキャンディ、准将さんに、あげるんだって、ノエルがずっと持ってたんです」
 マリィがそういうと、エドワードは、ニカっと笑って、
「さんきゅー!ノエル!これで、もうすこしお仕事頑張れそう。今日は、パパ休ませてやって、明日は一緒に遊んでもらえよな」
 そういうと、頭をなでる。
「うん。おしごと、がんばってね」
 そういうと、ノエルは、マリィのところへ戻る。
「おやつにでも食べてくださいね」
 マリィが置いて行った、タルトを、アルフォンスがありがたく受け取る。
「ありがとうございます」
「では、准将、中佐。マーカー少佐、お先に失礼します」
 丁寧に頭をさげて、ガネットとその家族は部屋を出て行った。
 すぐ後に、ソニックも「お先に」とふらふらと歩み、ベレッタも「しつれーしますぅう」と力なく去っていった。
 残ったのは、エドワードとアルフォンス、そしてマーカーだった。
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