SP(エスピー)
□SP6
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SP6:遅すぎる対応
季節が変わってしまった。
兄が、去ったのは、これで二度目。
自分は、いつも去ってしまった兄の背中を、思い出すだけ。自分の行動の遅さをいつも、実感してしまう。
パーティでリンと会うことは、あったが怒りをぶつけてもなんの解決もならないことは、わかっていた。
兄が決めたことだから。
そして、兄がどうして自分の前から去ったのか、という理由もわかった。
あの、夏の自分にとって『いい思い出』は、兄にとっては、脅されるに十分なもので、それをしているのが、リンではなく、ブラッドレイだということ。そして、リンは、助けてあげているだけだということも…。
自分が、一番不甲斐ない。
大切なものを、守れないのに、アイシテルなんて、言えるわけがなく。
兄が、生きていて、幸せであればそれでいいのかも、と考える。
凛と冷える寒さの中、雪がふわりと舞い落ちてきた。
「冷えますネ」
紅茶を運んできたのは、メイ・チャン。
正式に、チャンの当主から婚約の申し出があり、メイとは共に暮らすこととなってしまった。それを、兄は望んでいた…。
「アルフォンスさン?」
「なんでもないよ。…雪が降ってきたから」
庭に視線を向けながら、そう答える。
「冷えるはずでス」
紅茶のいい香りが漂う。
「いい香りの紅茶だね」
「金毫テン紅という、紅茶でデス。金色に輝く茶葉が、美しいでしょウ」
金色、そう聞くだけで自分は視線を落としてしまう。それを、彼女は気がついているだろうか。気がついていたとしても、僕には、治せない。
「うん、綺麗だね」
「……。明日は、学園の聖誕祭。学園長先生もご参加されるのでしょウ」
話を変えようとしたのか、メイがそう尋ねた。
「生徒会のほうで、準備を進めてくれてるみたいだね。時間があるときに、覗こうと思うよ」
明日は、生徒主催のパーティが開かれる。ダンスなどの催し物があるそうだ。
「ウチの…チャン家のカウントダウンパーティにも、参加していただけるのでしょウ」
確認のようにそういう彼女に、悪いような気持ちになって、僕は笑みを浮かべた。
「もちろん。婚約者として、行くのは当然でしょう」
その言葉に、ほっとしたのか、メイも口角をつりあげた。