中央編E
□中央編119 バリアー
5ページ/5ページ
たとえ、下士官だと思って近づいたとしても。
「軍の機密をオレから聞きだしたかったのか?」
だが、軍の話なぞ、まったくといっていいほどしていない。それで油断させて、情報を手にいれようとしたのか。
リチャードは、薄く笑った。
「ただ、美しい人を描きたいと思って、何が悪いのです」
それだけ言うと、リチャードは黒い衣服に身を包んだ軍人たちに連れられていった。
「兄さん…」
エドワードは、アルフォンスにかけられたジャケットを両手で抑え、最後に描いていたリチャードの絵を見た。
「…はは。オレ、こんなに綺麗じゃねえよ」
キャンバスの自分にも、右肩に傷が大きく残されていた。
だが、その顔は、無表情ではなく、微かに笑みを引いていた。
その、穏やかなキャンバス上の兄の笑みに、アルフォンスはぎゅっと心臓を押しつぶされるような思いだった。
そう、たった一人のために生きると言っていた兄の、その笑みの視線は、自分を見ていない。
「アル」
そう呼ばれて、アルフォンスは顔を、兄に向けた。
「っ!」
そこには、その絵以上の優しい眼差しと、柔らかな笑みに、愛してるという想いが十分に染み出ているのを、感じる。
それは、自分が愛されていることを知っているから。
「…兄さんは、綺麗だよ。せかいじゅうで、いちばん、ね――」
絵では抱きしめることも触れることもできない。
ほんものは、僕だけが、それを、許される。
だから、僕は、せかいじゅうでいちばん綺麗な人を、抱きしめられる特権が与えられたたったひとり。
「助けに来てくれて、ありがとな」
「当然だよ。ぼくは、兄さんを守る騎士(ナイト)だからね」
あいしてる、というバリアーは、いつでも有効だ。
おわり。
リチャード・王って…誰だっけ、と思ったら、パトレイバーだった!内海さんだっけ偽名。