中央編E

□中央編119 バリアー
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『してます☆駆けだしの絵描きさんのモデルです。現在、そちらにおります』
「モデル!?どこの誰ですか!その絵描きは!ヌードデッサンなんて、許せません!!ってか、なぜそれを今まで黙ってたんですか!」
『スミマセン☆害がなさそうでしたし、少将も立っているだけだったので。ってか、ヌードではありませんけど☆』
「とにかく!その絵描きの名前と住所を!」
『はい。名前は、リチャード・ウォン。住所は…』
「僕が行くまで、ジンデル中尉は待機していてください」
『わかりました』
 そこで、電話を切るなり、

「大総統!」
 隣の大総統執務室へかけこんだ。その部屋の主は、眠そうな目で、アルフォンスを見る。
「お先に失礼します!」
「貴様、私がこれだけの仕事を抱えているのが見えぬのか」
「見えます!スパイ関係で、日々超過勤務の為、今日くらいはいいかと。では!」
 それだけ言うと、あっという間に、アルフォンスは部屋を出て行った。
「…何だ、あいつは」
 どうせ、兄関係なのだろうと、呆れた大総統、ロイ・マスタングだ。


 アルフォンスは、着替える間もなく、住所通りの場所へ向かった。
 角を曲がると、「お疲れさまです」と、マリアンが立っていて、敬礼する。
「はぁ、はあ…。兄は」
 アパートの一室を指さしたので、アルフォンスは躊躇いもなく、その部屋をノックした。
『おい、リチャード。誰か来たぞ』
『ああっ、動かないで!いいんです、客なんて新聞の勧誘くらいですから』
『こんな時間に新聞の勧誘はこねぇだろうが』
 はは、と笑った兄の声が聞こえて、アルフォンスは、ごうっと渦巻く嫉妬の炎に自分を抑えきれずに、その玄関扉を開いた。

 開けた瞬間、滅多に嗅ぐことのない、絵具の匂いがし、「兄さん!?」というアルフォンスの声を聞いた瞬間、エドワードが「おおっ!?アル!?どうした!?」と驚いたが、同時に「動かないで!!」と叫ばれ、エドワードは横を向いたまま動けなかった。
「どういうこと、兄さん!モデルだって!?」
「おう」
 アルフォンスが思っていたヌードモデルとは違ったが、ほんとうにモデルをしているようだった。
「って!ヌードじゃないけど、シャツはだけてるし!!」
 とアルフォンスがエドワードのシャツを直した瞬間、
「できました。ありがとうございます、エドワードさん」
 と、リチャードが笑みを向けた。
「すみません、えっと、貴方がエドワードさんの弟さん…いえ、お兄さんでしたか?」
「弟のアルフォンスです。ってか、どういうことですか!?いつ兄を知ったんですか!?ってか、なんでモデル!?」
「いつ知ったって…」
 エドワードがちらり、とリチャードを見た。
「ナンパです」
「ナンパだよな」
 二人の言葉が、重なって、アルフォンスは真っ青になった。
「ナンパされて、のこのこついてったってわけ!?何か変なことされたらどうするつもりだったの!?」
「いや、ナンパされて断ったけど、司令部で待ち伏せされて、オレが気に入ったから、やってんだよ、モデル」
「き、気に入った…!?」
 アルフォンスの顔が真っ青になり、エドワードもいい方がまずかったか?と思った。
「駆けだしの画家らしくって、どうしてもオレがいいっていうし、一日二時間だけだし。これない日もあるって条件で受けたんだ。お礼は、夕食」
「そ、そんなの少将階級が受けるようなコトじゃないよ!兄さんには、自覚がたりない!自分が、少将階級だということ!」
「…少将だろうと、オレはエドワード・エルリックにすぎんしな。オレを描きたいって言うんだから、描かせておけばいいじゃん」
「ヌードとかじゃないよね…?」
 じとり、と嫉妬のようなじめじめとした負のオーラを背負ったアルフォンスが、顔だけ笑みを浮かべて尋ねる。
「いずれは、脱ぐんだってよ。いいじゃん、男なんだし」
「だ、だめぇええええ!絶対、絶対ダメ!!」
「んだよ、減るもんじゃねぇんだしさ」
「わかってるの!?兄さんの体になにがあるのか!」
「!」
 アルフォンスに言われて、エドワードは、眉根を寄せた。
「確かに、汚い体だな」
 冷たく言い放ったエドワードは、立ちあがって、ジャケットを羽織る。
「丁度、二時間だな。邪魔が入って悪かったな。リチャード。明日は来られないから」
 そういうと、エドワードはそのまま玄関を出ようとした。
「兄さん!」
 慌ててその後を追うと、リチャードは一人残され、今描き終わった絵を見た。

「…汚いからだ――か…」
 はだけた場所から、微かに見えた、肩の皮膚の色の違う場所。キャンバスの上、その肩に触れた。




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