中央編E

□中央編119 バリアー
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「兄さん!怒ってるの!?兄さん!」
「怒ってねぇよ。汚い体なのは事実だ」
「僕が言いたいのは、そういうことじゃない!」
 家に帰宅するなり、言い合っている“兄二人”を、B号が、「ほわぁ」と鳴きながら、ソファから見上げる。
「素性もわからない人間についていって、心配なんだよ!何されるかわからないし」
「…」
「それに、貴方がそう言うような、痕をつけたのは、僕だ…」
 そこで、エドワードは、「ちがう!」と慌ててアルフォンスを見上げた。
「そうでしょう。兄さんが、僕なんか助けなければ、右腕を奪われることもなかった。機械鎧で傷つくこともなかった!取り戻したとはいえ、痕が残ってしまった…全部僕の所為でしょう!僕がいなければ、貴方の言う『汚いからだ』はなかったはずだ!」
「そんときは、オレの存在すらねぇよ」
「っ…」
「はは…二人で、傷つけあって、どうすんだ…いまさら、こんな傷痕ごときで」
「僕が言いたいのは、傷のことじゃない!兄さん自身が心配なんだ!なんでそれをわかってくれないの!?見ず知らずの人に、ついていって、兄さんが傷つけられたら、僕は辛いよ!それが、わからない!?」
「っ…ごめん」
 そう小さくつぶやいたエドワードに、アルフォンスは息を吐いた。
「責めてばっかりで、僕の方こそ、ごめん」
 そう兄を抱き締めると、いつもより小さく感じた。口には出せないが。

「彼のどこを気に入ったか、わからないけど、兄さんは人をすんなり好きになりすぎるよ」
「好きなんて言ってねぇよ。犬みたいだなぁって思っただけ。絵描きで、生きていこうとするそういう人生も、羨ましかったのかもしれない」
 自分が、軍人などという職業だからかもしれないが。

「兄さんに、絵が描けるとは思わないけど」
「たとえば、の話だ。一定収入があるわけでもない。出会った人間に『モデルしてください』なんて言えるような、“自由”な職業、そうそうねぇだろ」
「兄さんだって、ある意味自由でしょ」
「籠の中で自由と言われてもな」
 アルフォンスの胸のなかで、エドワードは目を閉じた。

「僕は、兄さんがだいすきだ。だから、ほんとうはこの腕以外のところに居て欲しくない。でも、こんな小さな場所で収まるような兄さんじゃないから、閉じ込めるようなことはしていない」
「大事なら、閉じ込めておけば。だったら、おまえだって怒らなくてすむだろ」
「ダメだよ。だとしたら、僕は、兄さんになにをするかわからない。そして、兄さんに嫌われるかもしれない」
「…だったら、逃すようなこと、すんじゃねぇよ。精神的に」
 ぎゅっとしがみついたエドワードに、アルフォンスもさらに強く抱きしめた。
「うん――だいすきだよ、兄さん」
「オレも、だいすき。アル」
 唇が、そ、と重なりあった――。



「昨日は、来られずに悪かったな」
「いえ。昨夜は会議でしたか?」
「うーん、まぁな」
 そう、軽く伝えておく。そうそう言えるような内容ではない。
彼の自宅兼アトリエへとつき、いつものように、夕飯をもらって、食べ終わると彼が言った。

「今日は、シャツを脱いで頂けませんか」
 エドワードは一瞬躊躇った。アルフォンス的には、脱いで欲しくないような感じだったが、自分的には別にいい。
 この、右肩の傷痕だって、自分は、隠すべきではないとさえ思っている。
 これがあっての、自分だ。
 たとえ、汚いと思われても。
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