中央編E

□中央編119 バリアー
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 たとえ、下士官だと思って近づいたとしても。
「軍の機密をオレから聞きだしたかったのか?」
 だが、軍の話なぞ、まったくといっていいほどしていない。それで油断させて、情報を手にいれようとしたのか。

 リチャードは、薄く笑った。
「ただ、美しい人を描きたいと思って、何が悪いのです」

 それだけ言うと、リチャードは黒い衣服に身を包んだ軍人たちに連れられていった。

「兄さん…」
 エドワードは、アルフォンスにかけられたジャケットを両手で抑え、最後に描いていたリチャードの絵を見た。

「…はは。オレ、こんなに綺麗じゃねえよ」

 キャンバスの自分にも、右肩に傷が大きく残されていた。
 だが、その顔は、無表情ではなく、微かに笑みを引いていた。
 その、穏やかなキャンバス上の兄の笑みに、アルフォンスはぎゅっと心臓を押しつぶされるような思いだった。

 そう、たった一人のために生きると言っていた兄の、その笑みの視線は、自分を見ていない。

「アル」
 そう呼ばれて、アルフォンスは顔を、兄に向けた。


「っ!」

 そこには、その絵以上の優しい眼差しと、柔らかな笑みに、愛してるという想いが十分に染み出ているのを、感じる。
 それは、自分が愛されていることを知っているから。

「…兄さんは、綺麗だよ。せかいじゅうで、いちばん、ね――」

 絵では抱きしめることも触れることもできない。
 ほんものは、僕だけが、それを、許される。
 だから、僕は、せかいじゅうでいちばん綺麗な人を、抱きしめられる特権が与えられたたったひとり。
「助けに来てくれて、ありがとな」
「当然だよ。ぼくは、兄さんを守る騎士(ナイト)だからね」

 あいしてる、というバリアーは、いつでも有効だ。

おわり。

リチャード・王って…誰だっけ、と思ったら、パトレイバーだった!内海さんだっけ偽名。
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