中央編E
□中央編122 副司令官の憂鬱
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「百戦錬磨…」
アルフォンスの女性を落す手腕は、真似できない、とアンダーソン兄は思った。
あの王子様スマイルは一体ドコで習うのだ?あの、スマートに女性を喜ばせる方法を、どうやって知ったのだ?やはり、多くの場を踏んで来ているのだろう。
自分なんぞ、あんなに女性の囲まれたことなど、ないのに。
アルフォンスから視線を変えると、自分の目標『イザベル嬢』が、こちらを向いて、にこり、と頬笑んだ。
イザベル嬢は、目が大きく、金の髪をくるくると巻いて、二つに結んでいた。ピンクの大きなリボンがついたドレスを、ふわふわとなびかせている。
「アンダーソン大佐ね?」
「はい、そうです。お久しぶり、ですね」
彼女と視線を合わせるためには、しゃがみこむしかない。あるいは、片足をつけるか。
…そう、イザベル嬢は、齢6.7歳の子どもだったのだ。
そして、自分は、彼女を――実は知っていた。
身なりからして、一般家庭の女の子ではないと、わかった。だが、そんな子どもが、一人で、街を歩いていたのだ。
そこへ、声をかけると、女の子は、きらきらした目で自分を見上げた。
『貴方は、誰?』
『わたしは、中央司令部のアンダーソン大佐と申します』
『私、困ってるの。お母様にプレゼントを探していたのに、屋敷に帰れなくなってしまって』
『そうですか。プレゼントはもう、お買いになれたのですか?』
『まだ…』
『どのようなものをお探しですか?』
『お帽子を探してるの』
『でしたら、帽子屋は、こちらですね。でも、一つだけ。貴方のお母様は、貴方が今いなくて、とてもおさびしいでしょう。ですから、一刻も早くお帰りになられることが、お母様への一番のプレゼントとなるのではないでしょうか』
『…ええ。そうね。でも、私は屋敷がどこにあるのか、わからないの』
そう、視線を下げた少女の所に、
『お嬢様!』
と、数人の使用人らしき人間がかけてきた。
『よかった!御無事で!』
と、抱きしめられていた。
『お嬢様を保護してくださったのでしょうか』
そう執事らしき男に聞かれて、自分は、曖昧に笑った。
『たまたま出会っただけですよ』
『あの、お名前を。軍人さんですね』
その日は、軍服での市井見回りの日だった。
『ええ――中央司令部ハーキュリーズ・アンダーソン大佐と申します。お嬢様がご無事でよかったです』
そう頬笑みながら、たまたま持っていた――出所は、エルリック家の庭――四つ葉を子どもに渡す。
「貴方と、貴方のお母様に、幸運を」
そういうと、自分は踵を返したのだ。
…そう、あの時のお嬢様だったのだ。
あの子どもが、イザベル嬢だったとは。
「私と、ダンスを踊って下さい」
彼女が言いたそうで、言えなかった言葉を、自分から伝えた。
アンダーソン兄の笑みに、にこり、と小さなレディも嬉しそうにその手を取った。
二人はダンスを始める。
「私は、軍人がキライでした。でも、クレアちゃんが、ずっとそんなことはないって言っていたことが、わかったのです」
クレア?と思ったが、たしか、大総統の娘はクレア・マスタングだったことを思い出す。
御学友か、と思った。
――ああ、だから、大総統の命令だったのか。
「アンダーソン大佐のような、素敵な人がいるんですもの」
にこ、と笑った少女に、アンダーソンも頬笑む。
「そう思っていただけて、光栄です。イザベル嬢」
「お友達になってくださるかしら」
「ぜひ」
にこり、と笑ったアンダーソンに、イザベルも嬉しそうに頬笑んだ。