中央編E
□中央編123 潜入捜査
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「気になる話を聞いたんだ」
病室に戻され、吊っていた腕を外し、包帯の上から、そっとアルフォンスが両手を叩いてから、触れた。
「どんな?」
錬成を施されながらも、エドワードは話を続ける。
「国家錬金術師で、治療をしてからバカ高い治療費を請求するっていうヤツがいるって。大衆の為にあれ、だろ?錬金術師は」
「へぇ…」
「聞いたことねぇ?」
「ないね。ところで、兄さんはどうして右腕を骨折したのかな?その経緯はまだ聞いてないよね」
「コケた」
「はあ!?受身取れなかったの!?どこの御老人だよ!コケて骨折だなんて!運動不足でしょ、それ」
「ちっげぇわ!子どもが車にひかれそうになって、とっさに庇ったんだよ」
「それは、コケたとは言わない」
「うーん。子どもを助けただけなら、カッコイイ美談なんだけどー、助けた後、よろけてコケた時ヤっちまったからなーあははっ」
「あははじゃないよ、ったく!」
はあぁと大きなため息をついたアルフォンス。それは、安堵も混じっていた。
錬成がひと段落つくと、そっとエドワードの胸に額を付ける。
「…心配、した?」
「したに決ってるでしょ!」
胸にあるアルフォンスの頭を、ぽんぽん、と叩く。
「わりぃ」
「いーよ、ゆるしてあげる。僕でも治せそうな怪我だったし」
そういうと、アルフォンスは、ちゅ、と頬に唇をふれさせた。
そこへ、コンコン、とノックが聞こえ、入ってきたのは、
「失礼します。少将、お加減いかがですか?」
「アリッサ!と、ユン」
二人同時にやってきて、アルフォンスが
「ありがとうございます。応急処置をしていただいたと聞きました」
「ええ。といっても、何もできないに近いですけど」
「それでも、助けていただいて、ありがとうございます。それにしても、アリッサちゃんとユン少尉二人で、なんて珍しいですね」
そういわれて、アリッサとユンが顔を見合わせた。
「アル」
「うん?」
「おまえは気づいてねぇかもしんねぇけど、二人は付き合ってんの」
「ええっ!?」
本気で驚いたのか、アルフォンスが二人を見て目を見開く。
「エネルには、まだ言ってねぇから、おまえもナイショにしてろよ。あいつの泣く姿を、オレは見たい」
「え、あ、うん。父親代わりだった人だから、それはそうかもしれないけど。でも、ええっ!?ど、んな感じで二人は、接近したの!?ってか、なんで疎い兄さんが、そんなに知ってるの!?」
「オレには、情報屋がいるんだぜ」
そういうと、ユンが苦笑して、
「情報屋といっても、パン屋のエルガーさんでしょう」
「それもある。おまえが、アリッサを目当てに通ってたことも知ってるけど、もう一人の情報屋が教えてくれたぜ」
「…ああ、マーカーさんですか」
「おうよ」
「ええっ、そんな夜のバーでデートするまでに!?」
「あ、いえ、そうではなく。昼間に、一緒にいるのを見られたのでしょう。黒塗りの高級車が通るのを見たことがあるので。わたしは、未成年の女性を夜連れまわすのは好きではありません」
「おおっ、そうだった!未成年だ!こら、ユン!若い子たぶらかしてはいけねーんだぜ!!」
「…少将。それでは、彼女が、気にするので、それ以上は…」
ちらり、とアリッサを見ると、辛そうな笑みを浮かべて、
「私が、もっと大人だったら…」
と、呟いた。ユンは、
「大丈夫ですよ。待ちますから」
そう笑ったユンの笑みに、ほっとしたような笑みを浮かべたアリッサに、エドワードは「わりぃ」と小さく呟いた。
「しっかりもの同士、すごく似合ってると思うけどね」
「うん、似合ってると思うぜ、オレだって。あとは、エネルが泣くのを見たいだけ」
なぜか、そっちのほうが楽しみにしているエドワードだった。
「ところで、ユン。調べて欲しいことがあるんだ」
急にエドワードの表情がキリっとしたので、アリッサは、「お見舞いに持ってきたお花を、生けてきます」と、話が仕事モードに切り替わったのを感じて、外へ出た。
「ほんっと、気が利くぜ、アリッサは。兄貴のヤローと大違いだぜ」