中央編E

□中央編123 潜入捜査
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 今頃、エネルが、盛大なくしゃみをしているかもしれない。
 話を聞いたユンは、
「…わかりました。早急に調べます」
「それと、ユン」
「はい」
「おまえに、大切な人ができたことは、めちゃくちゃうれしい。だからこそ、自分のこと、もっと大事にしなきゃダメなんだぜ」
 そういわれて、ユンは、口角を釣り上げた。
「それは、貴方にそっくりそのままお返しします」
 そういうと、踵を返して、部屋を出ていった。
「うん、ホントにね。ホントに自分、大事にしてよ」
「うっせーわっ!!」



「退院おめでとーございます」
「お見舞いに伺おうと思ったので・す・が。貴方が溜めていた書類を捌くのに、休む時間もなく、伺えませんでした」
 アンダーソン兄弟の嫌味に、エドワードは「おーさんきゅなー」とかる〜くあしらい、さっさと執務室へと入って行く。
「少将、例の事ですが――」
 ユンの報告に、エドワードは、怪訝な顔だ。
「エイジと名乗ってる?そのニセモノの国家錬金術師が?」
「はい。エイジ医師が、エネル家へ行ったのは、二週間前。ほぼ同時に、中央の西辺りから噂が出ています。その噂は点々としており、患者は主に、一般的な家庭ですね」
「怪我や病気の度合いは」
「病気では例がありません。怪我が多いです。骨折やねんざといった症状が多いです。死ぬような重症例もありません」
「ふうん…」
「国家錬金術師の“エイジ医師”が、銀時計で治療すれば、すぐに完治する。だが、治療費がバカ高いので、その後に苦しむ人が多いようです。そして、金貸し屋を斡旋し、そこから金を借りるはいいが、利子が高い。そして、取り立てに苦しむ…」
「なんで、一般家庭なんだろうな。裕福な家庭だったら、もっと金取れるじゃん」
「そこは、バレるのを危惧して、でしょう。国家錬金術師だって、お金はありますし、どういう付き合いがあるか、わかりませんから。なにもしらない、一般人のほうが、扱いやすい」
「ふむ…。でも、オレは親友がそんなふうに名前を使われるのが、めちゃくちゃムカつくんだけど。コレはやっぱ潜入しかねぇよな。うん、ねぇよ!」
 そういうエドワードに、ユンは
「…今回の怪我のこともありますし、エルリック大佐はお怒りになるでしょう。私かアンダーソン中佐が行うべきでは…」
「心配すんな。オレとアルで潜入すっから」
「どのように、ですか?場所は、先ほども申しましたが、西です。スラム街に近いですので、貴方達が行きますと、目立ちませんか?」
「ああうん、オレら、美しい男子だしなっ」
 そう気取って、髪を揺らしたエドワードだったが、
「いえ、行動が派手なので」
「どーゆ意味だ、ユンっ!」
 いえ、と咳払いをしてから、
「では、そちらは、個人的に、エルリック大佐にお話下さい。それと、アンダーソン兄弟の機嫌を損ねないように、書類は、すばやくこなして頂けますでしょうか。彼ら、三日寝てませんので」
「マジ?可哀想だな」
「貴方が言わないでください」
 呆れたユンは、同時にため息をついた。


 そして、三時間後――
「こんなもん、オレの手にかかれば、終わるっつーの」
 あれだけあった書類が、無くなり、アンダーソン兄弟は目を瞬かせた。
「やれるんだから、やれよ…」
 と、ボソっとアンダーソン弟が呟いた。
「おまえら、生真面目すぎんだって。一から十まで読むから。基本、ナナメ読みだぜ☆」
「理解したうえで、許可印でしょうがっ!」
「まさか、テキトーとか言うんじゃないでしょうね!?」
「ああ、ダイジョーブ。内容は覚えてる。で、おまえらにお願いがあるから、オレは書類をやったわけだ。聞けよ?」
「…聞きますが、そのあと24時間でもいいので、休暇を下さい」
「おう、明後日まで休みをやろう」
「ありがとうございます。では、お聞きします」

 そして、エドワードが言った内容に、二人は、頭をかかえた。さすが双子。おなじ角度で頭をかかえ、さらに、項垂れた首の位置までおなじだ。
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