中央編E

□中央編124 ケンジャ ノ イシ
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「どこに?」
「ホントは言っちゃいけないんだけど…ゼノタイム。かつて、金鉱で栄えたトコだよ」
 知ってるでしょ、とその目が言っていた。
「…はは。大総統は、よほどオレのことを好きらしい」
「ううん。大総統秘書官は、よほど中央司令部司令官を好きらしい、と言ってほしいな」
「まさか、おまえが?」
 アルフォンスは、にこ、と笑って、
「もともと行く予定だったんだけど、もっと後だったんだ。予定を組み直して、明日にしたんだ。結構大変だったんだよ」
「そっか。おまえの目で見てくれるのなら、信頼できていいや」
「兄さん想いの弟を、褒めてね」
「さすが、オレのアル」
 そういうと、二人は、ふふ、と笑い合った。
 温かな食事は、アルフォンスがいるからだ、とつくづくそう思う。明日は、会えなくて、寂しいけど、明日に限ったことではない。
 いつもの、日常とエドワードは、思っていた。



 ――その連絡が来たのは、翌日の午後四時だった。

「大総統秘書官が行方不明!?」
 ユンが叫ぶと同時に、エドワードに視線を向けた。エドワードは、その声を聞いて、目を見開いている。
「ええ…はい。わかりました。そう伝えます」
「なんだって!?アルが行方不明だと!?」
「はい。午前、大総統に断り、単独行動に出られたそうで、マグワール邸周辺を調査していたのでは、と大総統がおっしゃっておりました」
「そこで、にせもんエイジを殺した男たちと鉢合わせた、ということか…?」
「それは、わかりませんけど――」
「オレもゼノタイムに行く!」
 エドワードはそういうと、執務室を出ていくと、大部屋では、アンダーソン兄弟がすでに、
「ゼノタイム行き列車を手配しておきました」
「副官として、“幹部会”には、私が連絡しておきます。それと、大総統からの預かり物という資料をどうぞ」
 アンダーソン弟と、兄の言葉に、今の電話を聞かれていたのか、と思う。と、同時に、エドワードは「サンキュ」と感謝した。

「ユン、マリアン。オレと共に来い」
「はっ」
「はい☆」
 二人の顔付きは、とても凛々しいものだった。


 汽車の中で、アンダーソン兄が渡してくれた、資料――過去の国家錬金術師資格試験志願者リストを見る。
「はぁ…。多すぎて、わかんねェな」
「とりあえず、エイジさんが受けた年はコレですけど…。チャド・マーレイの周辺を洗っても、このリストに出てくる人物は浮き出てきませんね」
「どっから、洗うか、だな…」
 はぁ、とため息をついたエドワードは、流れる風景を目にした。
 その視線に、ユンは、
「…心配でしょう?大佐が行方不明だなんて」
「おそらく、事件に巻き込まれてるんだろうけど…まぁ、あいつも軍人だし、国家錬金術師だし…大丈夫だろうな」
「そういう言葉に、力がないように思います」
 そういわれて、エドワードは苦笑した。
「あいつに何かあったら、おまえらも覚悟しろ。オレがどうなるかわからん」
 そんな言葉を言う上官に、ユンもマリアンも、二人の関係を知っているだけに、本心だとわかっているし、彼の言う『覚悟』もせねばならないだろう、と思う。それが、どういう“覚悟”なのかは、まだわからないが――いや、わかりたくないが。
…上官は、本当に“覚悟”しているのだろうと思った。
 人間の本当の“覚悟”は、たったひとつ――


 三人が、ゼノタイムの駅に着くと、大総統府の人間が二人待っていた。用意されていた車に乗り込み、一軒の宿屋に入った。
「こちらで、大総統がお待ちです」
 そう促されて行った宿屋の一室に、大総統が待っていた。

「だいじょうぶか」
 大総統が最初に言った言葉に、エドワードは不安を覚えた。
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