中央編E
□中央編 まだ空は…
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「よっし、げっとー」
と、喜んで戻って来た、エドワードに、アンダーソン弟は、
「それ、どうするんですか?」
「ソルにプレゼントさ」
「…ソル…って、エイジさんトコの?まだ、お座りもまともにできないはずでは。レインコートなんて必要ないじゃないですか」
「子どもは大きくなるから、大丈夫」
「何年後ですか、それ」
あきれたアンダーソン弟だったが、エドワードが嬉しそうだったので、まぁいいか、と諦めた。
「ということで、行き先は、エイジ診療所だ」
「ええっ」
くるり、と反転されて、今来た道を戻る。
「ったく」
呆れたが、仕方なく着いて行くことにした。もう、この時間で何度呆れたことか。
☆
「ええーっ!少将、あのお店のレインコート買って下さったんですかぁ!僕も欲しかったんです!でも、ジョリーが、そんな何年後に使うものだ!って反対するから、あきらめてたんです!」
と、エイジ氏が思いがけず喜んでいて、アンダーソン弟は、「類は友を呼ぶ」という言葉を脳裏に浮かばせていた。
「だろ〜!可愛かったもんな!ピンクと迷ったんだけど、ソルは女の子だし。でも水色でも、大丈夫だってお店の人が言ってたから」
「ええ、フードのところのリボンがかわいいですし、大丈夫ですよ!嬉しいです、ありがとうございますっ!」
…たしか、彼も国家錬金術師。金銭的に余裕のある人種だ。なのに、こんな安いレインコートでここまで喜ぶとは…。
「って、おまえら!こんなちいせェころから、ソルを甘やかすな!」
エネルがそういうと、反論とばかりに、
「おまえ、このまえ、ソルが二歳くらいになってやっと使えそうな玩具買ってたじゃん!」
「そうですよ!服だって、自分のよりたくさん買ってるし!まだ歩けないのに靴買ってるし!」
そう責められて、タジタジだ。どうやら、反論できないらしい。
そんなやりとりに終止符を打ったのは、なにもわかっていないソルの泣き声だった。
エイジが慌てて、部屋に向かう。
「さて、オレらも市井見回りに戻るか」
「おまえら、またサボりか」
「失礼ですね。わたしは、べつにサボるつもりではなかったのです」
アンダーソン弟に、エネルは、はは、と笑った。
「おまえも、そのうち、コイツの行動がわかってくるさ。あ、理解という意味ではなく、な」
「…それは、ビミョーですね」
「だな」
「おまえら、言いたいこと言うな!いくぞ、エフィー」
「はい」
二人が、エイジ診療所を出ると、いつのまにか、雨は止んでいて、まばゆい明かりが、差し込んでいた。
「よし、上がったなぁ」
キラキラと雫が明かりを浴びて、輝く。
「ほら、虹」
エドワードが指をさした場所を、アンダーソン弟も眩しそうに見上げた。
「…本当ですね」
「オレは嘘つかねェよ。うーん、虹みたら、ロールケーキ食いたくならね?大総統府近くの店にあるロールケーキ、買ってきてくんねェかな、うちの弟」
一人ごとにしては誰かに言っているような呟きを、聞いていたのは自分だけだ、とアンダーソン弟は思った。
「…虹とロールケーキの共通点がわかりませんが、司令官殿」
爽やかな笑みを浮かべ、小さな箱――大総統府近くの店の名が書かれた――を掲げた彼の弟、アルフォンス・エルリック大佐に、アンダーソン弟は、目を瞬かせた。
「エルリックテレパシーは、雨でも電波良好みたいだな」
「そうみたいだね。そして、晴れを呼ぶみたい」
くるくると、少将の閉じた赤い傘が回った。
少将の、感情が現れているかのように――
おわり