中央編E

□中央編130 怪談より寒いモノ
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「では、このままで司令官執務室へ行ってもいいんですね」
「いいっ!」
 そこまで怖いのか?と思ったが、アンダーソン弟はそんな姿の司令官を抱きあげて、戻ったのだった。


――がたん!!
 司令官執務室へ戻るなり、ユンとアンダーソン兄が、持っていた書類を落とし、立ちあがり、後ずさりしてしまった。
「エフィー!貴様、あれだけ少将には手を出すなと言っただろうが!!」
「え、アンダーソン中佐、物好きだったんですね…」
 二人の言葉に、
「在りえなくもないが、今は違う」
 と、肯定と否定をして、さらにアンダーソン兄が真っ青になる。
「ど、どうしよう…弟が、秘書官に殺される…!」
 なにをバカなこと言ってるんだ、と弟は思いつつ、司令官を下ろすと、「うわああん!ハークぅううう!!」と今度は、アンダーソン兄にしがみついた。
「ちょっ!少将!近い!近いですってばっ!!」
 濡れたシャツ一枚って!!
 臀部は腕を上げたら見えるし、濡れてるから、右肩の赤黒い場所が透けているし、そればかりではなく、胸の薄紅も透けているのでは…。
 そう思ったら、思わず真っ赤になってしまった。

「…ハークだって、意識してるだろうが…」
 弟の呟きに、はっとしたアンダーソン兄は、ぐいっとエドワードと両腕で突き離した。
「い、いや、違う!そうじゃない!!」
「なんでもいいから、聞けよ、ハーク!シャワーから赤い液体が出たんだっ!!」
「…もしかして、中央司令部の怪談、ですか」
 ユンの言葉に、こくこくと、真っ青な顔した司令官は頷いた。
「あなた、仮にも科学者でしょう?元研究所統括所長でしょ?何を言ってるんです。解明くらいしてやるって言ってくださいよ」
「だって出たんだから、しょうがねェだろ!」
「その液体を、検査に回すとか。成分を見て見ないと、なんとも言えないでしょうが」
「う…そ、そうだけどさ」
「科学者なら、科学的に物事を見て下さい」
「う…科学だって解明できないものを、オレは知ってるっ!!」
「そうでしょうけど、赤いということは、色がついてる、ってことじゃないですか。色をつけるには、どんなものがあるか、とか、いろいろ貴方の賢い頭で考えてください」
 ユンにそういわれつつ、大きめタオルでくるまれたエドワードを、ソファに座るように促された。

「光の加減だった、とか」
「いや、シャワー室の灯りは、白色だし、黄色や赤の電灯はない。だけど、確かに、赤い液体だった」
「それは、私も確認してます」
 アンダーソン弟もそういう。
「じゃあ、血液っぽかったのか、絵具的なものだったのか」
「見た目の判断はできねェ。でも、ちょっとでもその液体を採取できれば、判断できる」
「では、行きましょう」
 あっさり、とアンダーソン兄が言ったので、エドワードは
「オレは無理!エフィーと三人で行ってこいっ!」
「いいんですか?一人で、ここで待つことになりますが」
 エドワードは、ぶるぶると震えて、首を横に振った。
「む、むりむりむり!」
「コレが解決しないかぎり、少将は仕事をしません。全員で行ってみますか」
 そうユンが言うので、アンダーソン兄弟も仕方なくそれを承諾した。
「の、前に。服は来てくださいね!」
「オレの服、シャワー室だし!」
 着ていたシャツも濡れている。
 はぁ、と誰ともなくため息がついて、ユンが、
「私の新しい、Tシャツがあります。ボトムは、新しくないですが」
「いい、貸して」
 ユンのシャツと、軍服のボトムだけを借りて、それを着る。
「よっし、これでおっけー」
 そう、立ちあがった、エドワードの姿。まるで、大人の服をきた子ども状態だ。思わず、アンダーソン兄弟は顔を見合わせた。
「「…」」
 おまえ、ちょっとカワイイとか思っただろ。
 おまえこそ。

 さすが、双子。声に出すことなく、会話を成立させていた。
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