未来軍部11
□なあ、アル。
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なあ、アル。
オレは、おまえと笑っていたいよ。
エヴァンジェリナ・ボイル少将に会うために、中央司令部へやってきたエドワードとアルフォンス。
彼女の執務室に入るなり、ボイルは、にっこりと女性らしい笑みを浮かべて、迎え入れてくれた。
「ようこそ。だけど、私は金食い虫の国家錬金術師は嫌いなの」
にこ、と笑顔でそういわれたが、噂どおりの人だと二人は思った。
「国家錬金術師のお陰で、どれだけの予算が費やされていると思うの?貴方のアタマでは到底追いつけない数なのよ」
「そうでしょうね」
アルフォンスも、にっこり、と笑ってそれを肯定したが、その言い方はもちろん、彼女の気に入る答えではない。
「貴方が、エドワード・エルリック准将?」
ボイルにそういわれたのは、アルフォンスだ。
「ひっさしぶりだなぁ、それ」
エドワードは、ピクピクと額に血管を浮き彫りにしたが、笑顔を作った。
「オ・レ・が!東方司令部司令官エドワード・エルリック准将!」
「あら、失礼。…あなたが…」
つま先から頭の天辺、いや、アンテナまでジロジロと品定めされるように見られて、エドワードは不快だったが、あえて何も触れなかった。
「今日、我々が閣下にお会いしたかったのは、進言するためです」
「何かしら」
「国家錬金術師制度を廃止することは、けっこう。だが、貴方が中央司令部司令官の椅子や、大総統の椅子に座ることは、決してありません」
すっと細めたエドワードの視線は、痛みすら伴うような鋭さに溢れていた。
「何をいっているのかわからないわ」
ふふ、とボイルは笑みを浮かべた。
「正直、オレを殺しても、あんたにはムリだ。東方を潰しても意味はない」
「数多くの人間が、兄、エドワード・エルリックを陥れようと企ててきました。だけどすべて失敗におわった。それが、東方は、難攻不落と呼ばれる所以です」
「どうして、貴方にロイ・マスタング大将が肩入れするのか、正直理解できない」
「理解できないから、あんたはソレ程度、なんじゃね?」
エドワードの目に、自信が満ち溢れた。同時に、くく、と小さく笑う。
「あいつは、オレが利用できる人間だから、助力するし、オレもあいつならできると踏んでるから、あいつの下にいる。オレの力をもってすれば、あんな無能いつでもひっくり返せるしな」
すっと、ボイルの目が細められた。そのブルーの冷たい色だったが、反対にエドワードは太陽と同じ温度を有しているかのような、視線で見かえす。
「ジタバタすんなよ。一度、新しい世界を体験してみてから、動けばいいんじゃねーの。そのとき、国家錬金術師制度がなくなっていたって、誰も文句は言わせねぇよ。ただ、あんたが怖いだけなんだろ。国家錬金術師が」
びくり、とボイルの肩がゆれた。
アルフォンスが持っていた書類に視線を向けた。
「当時、准尉だった貴方は、イシュバール殲滅戦でその力を見せ付けられた。その後武器の開発にその力を注ぎ、前線指揮を経て、少将まで登りつめた」
「人間兵器だもんよ、そりゃ、怖いよな」
自嘲するかのようなエドワードの笑み。
「でもそれって、使い方次第なんだぜ。マスタング大将が国家錬金術師資格試験を取り締まるようになってから、医療系国家錬金術師は増えているのも事実。もちろん、医療系は危ういことにも使えるがな。っと、言いたいことはこれだけ。立ち話で悪かったな」
エドワードは、くるりと踵を返し、さっさとその部屋を退室しようと、カツカツと歩いて行く。
アルフォンスは、最後にボイルを見た。
エドワードは、すでに執務室を出ている。